アオサギを議論するページ

遅れたものの例年並

4月ももう終わりだというのに、激しく雪の舞った昨日の札幌。ヒナが生まれはじめているこの時期に、雪や雨、さらには強風と、全く思いやりのない天気が続きますね。

ところで、北海道のアオサギの個体数が今年は少ないということを先日書きましたが、どうも飛来時期が遅かっただけのようです。春先から遅め遅めに季節が進んでいますから、サギたちもそれに合わせてゆっくりめに行動を起こしているのでしょう。少なくとも私がよく見ている江別コロニーは例年並の営巣数にほぼ回復しました。数日前に見た時でおよそ160巣。この先は増えても10巣がいいところだと思います。

すでにヒナが生まれているところもあれば、まだ1本目の巣材を置くのに四苦八苦しているところもありますが、ともかくこれで今年のメンバーはだいたい揃いました。全体的にやや遅れ気味のシーズン序盤でしたが、これからは木々の芽吹きとともにいつもどおりの賑やかさ(騒々しさ?)となりそうです。

ヒナ誕生!

生まれてましたよ。例年より1週間ばかり遅め、それでもちゃんと生まれてました。

早朝のコロニーは、辺りが霜でうっすら白くなるような冷え込みでしたが、親鳥のおなかの下は暖かいのでしょうね。アオサギが産卵してヒナが孵化するまでの日数は25〜28日。外は寒くても日数が経てばちゃんとヒナが生まれます。

今朝、江別のコロニーでヒナが確認できたのは2巣。ただし、ヒナが見えたといっても、生まれたばかりの小さな小さなヒナです。巣材と巣材の隙間に灰色の産毛が見え隠れするのがようやく見られるていど。そこにヒナがいることを確信して見ないと、それがヒナだとはまず気付かなかったでしょう。

幸いなことに、ヒナを直接見つけられなくてもヒナがいることを知る術はあります。この時期、ヒナが生まれると、親鳥の行動にそれまで見られなかったパターンが加わるのです。それはまず親鳥が巣の中に首を突っ込むことから始まります。じつはこれ、ヒナに餌を吐き戻しているところなのですが、親鳥は巣の修繕をするときにも同じように屈むため、注意深く見ていないと給餌だということを見逃してしまいます。ただ、巣の修繕の時と違うのはじっとその姿勢で動かないこと。同じ姿勢で動かなければ給餌ということになります。親鳥はその姿勢をしばらく続けた後、首を上げてくちばしを小さく開いたり閉じたりしながら何かを咀嚼するようにもぐもぐやります。そして、もう一度首を巣に突っ込み、拾い上げた餌をふたたび飲み込みます。これが小さなヒナがいる親鳥の一連の給餌行動です。この行動が見られれば、その巣にはヒナがいると思って間違いありません。

国内でも暖かい地方ではヒナもすでに大きくなっているようですが、ここ北海道はこれからです。これからちょうど連休にかけて、多くのコロニーがヒナの誕生ラッシュになるのではないでしょうか。生まれたばかりのヒナたちがびっくりしないよう、そっと見守ってあげたいものです。

「アオサギ観察会」のご案内

ローカルな話題で恐縮ですが、今週水曜日、札幌市と江別市において、「平岡どんぐりの森」と「北海道アオサギ研究会」の共催でアオサギ観察会が行われます。平日の日中ということで参加できる方は限られると思いますが、お近くで時間のある方、いかがでしょうか? 下に北海道アオサギ研究会のHPにある案内を貼っておきます。

「アオサギ観察会」のご案内

北海道アオサギ研究会では、4月28日(水)、平岡と江別の両コロニーで「アオサギ観察会」を開催することになりました。ちょうどヒナが生まれはじめた頃の観察となります。お近くにお住まいの方は是非ご参加ください。
時間と場所は次のとおりです。
9:30~10:30      平岡コロニー(札幌市清田区平岡)   集合場所:平岡高校玄関前
11:15~12:00    江別コロニー(江別市工栄町)         集合場所:江別市リサイクルセンター倉庫前
参加はどちらか片方のみでも構いません。雨の場合は中止です。
平岡のほうは参加人数にとくに制限を設けませんので、平岡のみをご希望の方はご自由に参加していただければと思います。江別のほうはアオサギの営巣に配慮し先着10名様のみとしますので、江別に参加ご希望の方は松長までメールか電話(090-6445-2220)でご連絡ください。
なお、今回の観察会は「平岡どんぐりの森」との共催 で行います。「平岡どんぐりの森」は、2000年以降、毎年、平岡コロニーで観察会を行うなど、その活動は平岡のアオサギ営巣地の保全に大きく貢献しています。
[注意]平岡コロニーの観察は約400メートル離れた平岡高校屋上から行いますので、間近にアオサギが見られることを期待すると失望するかもしれません。 平岡へ参加される方はその点をあらかじめご了承ください。

この観察会は「平岡どんぐりの森」が平岡のコロニーを対象に2000年以来ずっと続けて行ってきたもので、江別コロニーも併せてというのは今回が初めてとなります。そもそもこのふたつのコロニーは、どちらも1997年に放棄された野幌コロニーを母体としたいわば兄弟コロニーです。野幌コロニーの在りし日の姿をご存知の方なら、その子供たちがいまどんなふうに成長しているのかを知る機会にもなると思います。また、平岡コロニーは今回の観察場所(高校の屋上)以外からはなかなか見られません。案内にも書かれているようにコロニーまで遠すぎるのが悔やまれますが、平岡周辺の方でアオサギがどこから来るのか気になっている方は是非参加してみて下さい。

さて、観察会で何が見られるのかが気になるところですが、大多数のアオサギはいま抱卵の最中で、巣にうずくまったままほとんど動きが無いと思います。ただ、江別のコロニーではひと月前にすでに巣に座っているところが20巣前後ありましたので、孵化まで4週間弱ということを考えれば、もうヒナがいるところがあってもおかしくありません。なお、ヒナの様子をじっくり見たいという方は、またその時期になれば第2回目の観察会が催されるはずです。そちらもお楽しみに。

なぜ早く営巣を始めるのか?

もうずいぶん前からこのことが気になっています。そもそもは、札幌周辺で越冬個体が見られはじめ、なぜ敢えて条件の悪いところで冬を越さなければならないのだろうと不思議に思ったのが最初です。もっとも、人の目には過酷に映っても、サギたちは意外と十分に餌を獲っているのかもしれません。それならわざわざ苦労して渡りをしなくてもいいのではないかと。あるいは、渡る元気もない個体が仕方なく留まっているということも考えられます。これはこれで謎なのですが、今回はその話ではなく、営巣の開始時期が違うことによって彼らにどんな利益不利益があるかという話。つまり、越冬個体は早い時期に繁殖を始めることで何か得があるから越冬するのではないかということです。過酷な条件で冬を過ごしても、早く繁殖活動を始めることによるメリットが冬のリスクを上回るのであれば渡らないという選択肢も納得できます。

さて、ここからが本題。サギたちは早く営巣を開始することでどのような利益を得るのでしょうか? このことを考える上でまず頭に入れておきたいのは彼らの繁殖形態についてです。アオサギの繁殖の特徴は何といっても集団繁殖を行うという点。ひとつがいだけで単独に営巣する鳥類とは異なり、営巣活動のひとつひとつが何らかの形でつがい以外の個体からの影響を受けることになります。その影響は個々のつがいにとって良いほうに働くこともあれば悪いほうに働くこともあります。コロニーが成り立っているということを考えれば、全体としては悪い影響より良い影響のほうが上回っているということだと思いますが、個々のつがいを見れば、集団繁殖から受けるメリット、デメリットの程度はまちまちです。そして、その程度の差を決定的にするのが繁殖開始時期の違いだと思うのです。

ということで、最初に戻って、早いと何が得なのかという話です。これについては考えられることがいくつかあります。まず、早くコロニーに飛来すれば巣をつくる場所は選り取り見取りです。早ければ早いほど自分の好きな場所に巣をかけられるわけです。巣の位置というのは意外と重要で、やはり見晴らしの良いところのほうが好まれます。見晴らしと言っても、周辺の景色がよく見えるというのではなく、それも重要ですが、コロニー全体の状況がよく分かる位置にあることのほうがより重要なようです。そのため、巣はコロニーの真ん中のほうから埋まっていくのが普通です。

コロニー全体の状況を見張らせる場所が便利な理由はコロニーの本質に関わる問題なのでまた改めて書きますが、もっと狭い範囲の巣の位置関係が問題になってくることもあります。お隣さん同士の関係では他より低い位置にある巣はどうも分が悪いようです。たとえば、アオサギの場合、強制交尾がときどき見られますが、これはたいてい近場にいる個体間で行われます。このとき、強制交尾をしかける雄の巣は相手の巣より高い位置にあるのが普通です。雄のほうにしてみれば、相手の巣の状況を事前に十分確認できるという利点があるのでしょう。逆の位置関係ではこうはなりません。結果的に、低いところに巣をつくったペアは繁殖の目的を十分に達っせられなくなってしまうのです。雌の場合はいずれにしても自分の遺伝子を残せるのでまだいいのですが、雄は生まれたヒナが自分の子かどうか分かりません。こうした後々のデメリットを避けるためには、やはり早くコロニーに入って有利な場所が選ぶことが重要なのです。

巣に関してはもうひとつ問題があります。アオサギの巣は小枝でつくられているので、冬のあいだに巣が壊れていればつくり直さなければなりません。また、大幅に壊れていなくても全く修繕しないということはないでしょう。多かれ少なかれどこかから枝をとってきて巣をリフォームする必要があります。また、古巣があれば必ずそれを使うかというとそういうわけではなく、誰も使っていない古巣があるのにわざわざすぐ横に一から作りはじめる場合もよくあります。そこで問題になるのが巣材の調達です。この場合も、早くコロニーに来たほうが巣材をふんだんに獲得できて有利なのです。とくに雪国の場合は、営巣の初期は地面はまだ雪に覆われていますから、地上に落ちている小枝を拾うわけにはいきません。巣材はもっぱら古巣から引き抜いてくることになります。早い時期にはまだ多くの古巣が残っているのでいくらでも小枝を得ることができます。ところが、遅く来たサギたちには残念ながらこの恩恵はありません。古巣も軒並み埋まってしまい、簡単に得られる巣材はもうありません。地上もまだ一面雪で覆われて…、ということになればこれはもう悲惨ですが、さすがにその頃には雪も解け、地面に降りれば小枝を探すことはできます。ただ、近くの古巣から簡単に集められる巣材に比べれば労力が要るのは事実。それに、自分の巣を空けて遠くまで時間をかけて探しに出るわけですから、その間にペアの雌が上で書いたような不届き者に襲われる恐れも出てきます。そんなことで、遅く来ると何かにつけ悪いことばかりなのです。

とはいえ、これはまだまだ営巣の初期段階に限った話。早い者と遅い者の違いはこれだけではありません。ヒナが生まれた後もその影響は続いていきます。その話はまた別の機会に。

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