四兄弟のその後
- 2010年07月12日
- 生態
この2羽の兄弟は右側が雄、左側が雌です。頭部の見かけが違うのではっきり区別できますね。
というのは真っ赤な嘘で、アオサギの場合、雌雄はそんなに簡単に区別できません。この2羽も然り。けれども、どう見ても違いがあるように見えるのは何故なのでしょう?
じつはこの兄弟、前に「四兄弟の運命」というタイトルで一度紹介したことがあります。 あの記事を載せたとき、ヒナは生後2週目でした。そして、4羽のヒナのうち1羽がとくに小さかったのです。ヒナの体のサイズは生き延びる可能性を大きく左右します。小さなヒナは餌を巡る競争において圧倒的に不利なばかりか、大きなヒナから常に痛めつけられることになるからです。
左の写真は前回の記事から2週間ばかり後の様子です。ご覧のように、大きなヒナが3羽に小さなヒナが1羽。小さなヒナは大きな兄や姉たちに射すくめられ、実際に小さいのがますます萎縮している感じです。これはあまりに大きなハンディです。この小さなヒナに巣立ちまでのサバイバルレースを他の兄弟と同じ土俵で戦えというのは無理な話。初めから勝負になりません。仮に彼らの世界に、大きな兄や姉は小さな弟や妹の面倒を見るべきだとか、兄弟は助け合うべきとかいうような価値観があれば話は違ってきますが、そんな満ち足りた世界の倫理観を彼らが持っているはずがありません。親でさえいじめられているヒナを助けようとしないのがアオサギの世界の常態。写真のような状況で小さなヒナがどのような目に会うのかは容易に想像できます。
そしてさらに1週間後のヒナが右の写真です。手前が小さかったヒナ。体格の面では他のヒナにかなり追いついてきました。しかし、虐待の跡は生々しく残っています。頭部の羽毛はことごとくむしられ、地肌が見えるほどになっています。アオサギは相手を攻撃するとき、くちばしで頭部を突くのが最も一般的です。ヒナ同士にそれほど体格差がない場合は小突く程度で大事に至りませんが、体格に圧倒的な差のあるヒナの場合には、小さなヒナが受けるダメージはそうとうなものになります。最悪の場合、文字通り血みどろになるまで相手を突き、最終的には殺してしまうこともあるようです。幸いなことに、このヒナの場合は死に至るほどの深手は負わなかったようで、ぼろぼろになりながらも、何とかここまで持ちこたえることができたようです。
そして、この状態からさらにひと月ほど経ったヒナの様子が最初にお見せした写真なのです。どちらが小さかったヒナかはもうお分かりでしょう。頭部の羽毛はまだ本来の長さではないものの、完全に復活しきれいに生え揃っています。虐待があったのは遠い昔の話となり、大きな兄弟のうち2羽はすでに巣立ってしまいました。このヒナもここまで大きくなってしまえば、よほどのことが無い限り巣立ちまで障害になるものはありません。頭部の羽毛がさらに伸び、他のヒナと外見で見分けがつかなくなる頃には、このヒナもすでに巣立っていることでしょう。長生きしてほしいものです。