コロニー放棄の経緯
- 2013年06月30日
- 保全
しばらく前に、当サイトの「アオサギ掲示板」で、アオサギコロニーが消滅したとの情報を教えていただきました。それ以来、そのことについてあれこれ調べています。まだ何が原因で放棄に至ったのか確かなことは分かっていませんが、アオサギの保護保全に関わるひとつの参考事例として、これまでの経緯だけでもとりあえずまとめておこうと思います。
消滅したのは北海道の幌加内町にあったコロニーです。雨竜川の河畔林に十数つがいが巣をかけており、今年で8年目の営巣でした。周りは田圃や畑の広がるところで、人家もほとんどありません。コロニーの存在を知る人はごく僅かだったはずです。それが5月末頃に完全に放棄されてしまいました。幌加内といえば国内でももっとも寒い地域のひとつで、アオサギはかなり遅い時期になってから繁殖を始めます。とはいえ、さすがに5月末ともなればほとんどの巣には小さなヒナがいたはずです。その時期にヒナを置き去りにして逃げたわけですから、よほどのことがあったのだと思います。
さっそく現地の状況を調べに行ったところ、コロニーのある樹林で伐採工事が行われていることが分かりました。なんでも河川の保護工事を行うために樹林の伐採が必要だったということです。伐採箇所はコロニーそのものにはまだ及んでいませんでしたが、コロニーからほんの4、50mの距離まで迫っていました。その近さで木をバリバリと倒されたら、安心して営巣できるわけがありません。ただ、その後、この工事を施行している河川事務所に尋ねたところ、この伐採作業が行われたのは6月4日、つまりコロニーが放棄された後ということで、伐採作業自体が営巣放棄に関係したわけではないようでした。
このコロニーでは5月上旬にアオサギが営巣しているのが目撃されています。コロニー周辺での工事が始まったのはその後のことです。そして、5月28日にはアオサギはコロニーから少し(たぶん100mていど)離れた別の林に移っていたようです。おそらく緊急避難的に場所を移したのでしょう。さらに6月1日頃には、そこから5キロほど離れた林で新たに営巣を試みています。
一方、工事のほうはというと、伐採を除けば営巣放棄の原因となりそうな作業はほとんど見当たりません。考えられるとすれば、コロニーの川向かいにある堤防の測量ですが、その堤防は川を挟んで100m以上も離れたところにあります。アオサギは警戒はするかもしれませんが、放棄となるとこれはまた別次元の話。普通に測量していただけなら、その作業が影響したとはちょっと想像できません。ただ、この測量は5月22日と28日に行われており、28日にアオサギが緊急避難したと考えると時期的にはぴったりと符合します。
いずれにしても、工事との関係は疑われこそすれ断定はできないというのが今の状況です。もし、工事の影響でないとすれば、あと考えられるのは捕食者でしょうか。アオサギの営巣に深刻な被害を与えそうな相手としては、たとえば、オジロワシ、クマタカ、アライグマ、ヒグマあたりが挙がりますが、現地ではこれらの捕食者は見かけないということです。たとえいたとしても、いったんヒナが生まれてしまえばアオサギもそう簡単に放棄することはないでしょう。
ところで、今回の河川保護工事はコロニーの存在が分かった時点でストップしました。これは河川事務所が独自に受注業者に指示したもので、その判断は妥当なものだと思います。けれども、伐採中止の指示が現場に届いたのは伐採を行った当日だということで、これは問題です。前述したように、伐採を行う以前にコロニーは放棄されていましたから、今回の放棄の原因は伐採そのものというわけではないようです。しかし、もし伐採を行うときまでアオサギが営巣を続けていたら、伐採が彼らをコロニーから追い出したことは間違いないでしょう。結果的に放棄と工事との関係が薄くなっただけで、今回の工事に問題が無いというわけではありません。
問題は、アオサギのコロニーを含め鳥獣の生息状況を把握するための事前調査が十分でなかったことにあります。今回の工事は、法的に環境影響評価が必要な規模ではないようですが、だからといって何の調査もせずに何をやっても構わないというものではありません。今回の工事でも河川巡視という形で工事箇所の状況は何度か確認しています。アオサギのコロニーに気付いたのもその巡視においてでした。しかし、この巡視は対岸の堤防を車で移動して見回るていどのもので、鳥獣の生息状況を把握するためには最低限のものですらありません。せいぜいアオサギのコロニーに気付くていどのものでしょう。それに、寒いところとはいえ、5月に入ってからの調査では、葉も繁りますし樹林内部の様子など外からはまったく伺い知れません。樹林内でどんなに多くの鳥獣が暮らしていても、その命はほとんど無視されてしまうわけです。十分な事前調査を行うことは当然ですが、工事関係者には、鳥類の繁殖が集中する時期の樹林内作業は極力避けるようスケジュールを調整してほしいものだと思います。今回、このことは河川事務所のほうにも要望しておきました。
ところで、今回、コロニー放棄の情報を「アオサギ掲示板」に投稿してくださったのは、幌加内にお住まいのエゾミユビゲラさんです。エゾミユビゲラさんによると、6月初めにご自宅に隣接する林にアオサギが巣をつくりはじめたのを目撃し、放棄されたほうのコロニーに何かあったのではないかと思ったそうです。案の定、そうだったわけですが、じつは、このとき新たにつくりはじめた巣で、今も10つがい以上が営巣を続けているそうです。人一倍アオサギに思い入れのあるエゾミユビゲラさんですから、アオサギがコロニーを構える場所としてこんな安全な場所はまたとないでしょう。巣をつくりはじめてもうひと月、そろそろヒナが生まれる頃でしょうか。今度こそ安心して子育てを続けてほしいものです。