虻ヶ島の問題
- 2014年07月31日
- 保全
富山県氷見市の沖合に虻が島という面積1ヘクタールにも満たない小さな島があります。この島でアオサギが子育てし、それが島の希少な植物を枯らすというのでもうずいぶん前から問題になっています。ここ数日、そのことが新聞でいつくか記事になっていたので、今回はこの問題について少し考えてみたいと思います。
以下の記事は虻が島で小中学生を対象に自然観察会と島の清掃が行われたという内容で、アオサギの問題を掘り下げて書いたものではありません。
北日本新聞(2014年07月29日)「虻が島を清掃、自然観察 灘浦小・中」
富山新聞(2014年07月29日)「虻が島の自然、豊かさ体感 氷見の子どもら清掃、観察」
ただ、どちらの新聞も問題があることはさりげなく訴えていますね。とくに北日本新聞のほうはわりと強く問題視しているようで、じつはこの数日前にも記者ブログという形でわざわざこの問題を取り上げています。
北日本新聞(2014年7月25日)「虻が島のSOS」
この記事だけ見ると、「SOS」とか「早急な対応が求められる」とか、急に問題が生じたかのような感がありますが、じつは15年以上も前から同じような状況なのです。以下はちょうど10年前の中日新聞の記事です。
中日新聞(2004年4月19日)「アオサギのフン害防げ 虻が島で営巣材撤去 氷見市教委と住民連携」
氷見市では当時から巣を落とすことでアオサギに営巣させないようにと考えていたようですね。しかし、アオサギも少々巣を除去されたぐらいでは立ち退きません。そこで、市のほうでは他にもいろいろな方法を試みています。たとえば、ハヤブサの声を発する模型を設置したり、樹上に蛍光色の糸を張り巡らしたり…。
富山新聞(2007年12月18日)「海浜植物をサギの被害から守れ 富山県氷見市の虻が島 蛍光の糸で包囲が奏功」
けれども、いずれの方法も効果は限定的。結局、市としてはアオサギが来る前に巣を全部除去しておくという方向で意見がまとまったようです。
富山新聞(2010年9月1日)「虻が島のアオサギの巣撤去へ 氷見市教委、「ふん害」対策 」
そもそもアオサギがいて何が問題なのかというと、アオサギのフンが植物の成長を阻害するということなのですね。実際、多かれ少なかれフンの影響はあると思いますし、どこのコロニーもそれは同じです。ただ、この島の場合はあまりに面積が小さいため、植生の多様性が損なわれるともとの状態に回復するまで時間がかかる、あるいは回復できないということはあるかもしれません。
さて、その後、実際に巣を全部除去できたかどうかはともかく、結果として今もアオサギは営巣を続けているわけで、人間側の思惑はここまでことごとく外れたと言えそうです。今年3月の北日本新聞にそのやりきれなさが伝わる記事がありました。
北日本新聞(2014年3月10日)「虻が島のふん害深刻 氷見・巣除去いたちごっこ」
こんなふうに同じコロニーが永年にわたってニュースになり続けるというのはおそらく他には無いのではないでしょうか。そこまで嫌われているのなら、アオサギのほうもさっさと他所に移ってしまえば良さそうなものですが、アオサギのほうもそこにいたい理由があってそこに住んでいるわけで、そんな簡単には出ていってくれません。何か決定的に効果のある対策を考えない限り、今後もこの状況は変わらないでしょう。なにしろすでに15年以上も続いているのですから。
ただ、もうまったくお手上げなのかというとそうではなく、やりようはいくらでもあります。実際、国内でもうまく出ていってもらった事例はいくつもあります。また、アオサギを追い出すのに有効な方法も以前とくらべればずっと増えています。その辺の具体的なことは書きはじめると長くなるので、近いうちにまたあらためて記事にしたいと思います。
ところで、上述の北日本新聞のいたちごっこの記事には、県がアオサギ駆除の検討をしていると不穏なことが書かれています。これについては私も気になったので、その後、県や氷見市に問い合わせてみました。双方とも今のところそうしたことは考えていないとのことです。どうやら北日本新聞の記者さんは記事の内容を見てもいろいろ気負いすぎているようですね。なんとかしなければという思いは分かりますが、余裕が無いというかあまりに一方的にアオサギを悪者扱いしすぎている感じが拭えません。マスコミの論調はアオサギの保護保全に対する人々の意識を簡単に左右してしまうので、もう少しバランスのとれた記事にしてもらいたいなと思います。
それに比べれば、10年前の中日新聞の記事はずっと好感が持てます。もっとも、これは記事というより記者の感想のようなものですが。
中日新聞(2004年4月25日)「島にも人間生活の弊害?」
アオサギが沖合の島で営巣しているのが「人間の営みによるしわ寄せ」だという感想は私もまったく同感です。一方、先の北日本新聞の記事では、島が「アオサギにとっての”楽園”」と書かれています。これは明らかな勘違いですね。彼らが島に来たのは巣作りに適した環境が他に無くなったからで、仕方なく島に居場所を見つけたというのが本当のところでしょう。
国内のコロニーでアオサギ本来の営巣環境を保てているところなどほとんどありません。幸いにもアオサギは環境に対する順応力が高いため、なんとかかんとか場所を見つけて子育ての営みを続けられていますが、決してベストな生活を送っているわけではありません。彼らが私たちに迷惑をかけることがあるのは事実ですが、私たちが彼らに負担を強いていることのほうがよっぽど多いのです。そのことを認識せず、邪魔なものは追い出せば良いという態度で事にかかれば必ず失敗します。実際、国内至るところそんな失敗だらけです。しっかり情報を集めて頭を使って丁寧に対応すればアオサギとの共存は決して無理なことではありません。けれども、多くの自治体はそれがまったくできていないのですね。失敗すべくして失敗し、人とアオサギの関係を悪いほうへ悪いほうへと押しやっているのが現状です。行政の無能さがアオサギのいま一番の敵と言えるかもしれません。
もっとも、氷見市や富山県がそうだというのではありません。氷見市、富山県に限らず、総じて北陸地方の鳥獣行政は、ことアオサギに関しては国内でもかなり高いレベルにあります。これは何故なのかよく分からないのですが、北陸はアオサギが昔から多くいた地域なので、お互いうまく付き合っていくための知恵や価値観を地域文化として共有できているのかなと思ったりもします。だからこそ、虻が島の問題も人とアオサギ双方にとって納得のいく解決策を見つけてほしいと切に思います。