ホモセクシャルなサギたち
- 2015年09月30日
- 行動
ひと雨ごとに涼しくなるこの季節、アオサギの渡りも佳境に入り、北で過ごしたサギたちは、落ち葉が北風に吹かれるように、南へ南へと押し流されていっています。ここ札幌周辺のサギたちもいつの間にか姿を消し、気配すら感じなくなってしまいました。
そんなふうにいなくなってしまう彼らも、しかし、春になればまた当然のように戻ってきます。そして、つがいを見つけ、卵を産んで、というのが彼らのお決まりの行動パターン。それが毎年同じように繰り返されるわけです。そんな彼らを見ていると、ともすれば同じような個性の集団が機械的に同じことを繰り返しているように錯覚してしまいます。一羽一羽を外見で区別できないので、それはまあ仕方のないことなのかもしれません。外見が同じだから同じ個性なのだと。しかし、もちろんそんなことはありません。じっくり観察すると彼らの行動パターンは決して一様でないことが分かってきます。
雌雄の関係ひとつとっても、ありきたりな雄と雌のつがいばかりではありません。雄どうしのつがいがいたり、雌どうしのつがいがいたり…。そうなのです。実際、アオサギの世界にもホモセクシャルが存在するのです。じつのところ、それが雄どうしなのか雌どうしなのかは定かではありません。外見では判断できませんから。しかし、彼らの行動を見れば、それが少なくとも同性であるかどうかぐらいは分かります。右の写真は数年前に私が観察したペア。彼らは交互に相手の背中に乗って交尾していました(当時の記事)。雌雄は分かりませんが、同性であるのはほぼ確実です。
じつは、ホモセクシャルというのは動物ではそんなに特殊なことではないのですね。2006年にオスロの自然史博物館で催されたエキシビジョンでは、1,500種を超える動物に同性愛行動が見られたことが報告されています。もっとも、この数は当時判明した種数であって、知られていない種のほうがよっぽど多いと思われます。観察すればするほど、その数は今後いくらでも増えていくことでしょう。
左の写真の本には、そんな鳥類やほ乳類のホモセクシュアリティの事例が網羅的に紹介されています。この本の厚さ(750頁を超える)を見るだけで、動物界における同性愛がいかにありふれたものであるかが分かります。サギ類のことももちろん書かれています。サギ類の中でもっとも頁を割いて説明されているのはゴイサギで、飼育下という条件付きながら、性や齢によって異なる性の嗜好が詳しく記載されています。
たとえば雄の成鳥の場合、同性でペアがつくられた割合は2割にものぼるのだとか。これに対して、雌の同性カップルはまったく確認されていません。まあ、これは母数が示されていないので、どのていど信頼して良いのか分かりませんが、ゴイサギだけでなく、雄にくらべてホモセクシャルな雌が比べて少ないのは、どうも動物界の全体的な傾向のようです。
同書によると、ゴイサギ以外では、アオサギ、アマサギ、コサギ、スミレサギの4種でホモセクシャルな行動が知られているそうです。ただ、つがい間の同性愛関係についてはゴイサギからの報告があるだけで、他の4種はつがいではなく強制交尾時の雌雄関係のみが問題にされています。強制交尾というのは、配偶相手のいるいないに拘わらず、雄がつがい外の相手(普通は巣で抱卵中の雌)に強制的な交尾を仕掛けることです。彼らは大勢がひと所に巣を構えていますから、こういったことはよく起こります。そして、どうやらここでも雌雄以外の関係が見られるようなのです。
たとえば、アオサギの強制交尾についてはスペインのRamoさんが熱心に研究されていて、39回の強制交尾のうち3回が雄どうしの交尾だったと報告しています。他のサギ類もだいたい似たような者で、数パーセントほどの割合で雄どうしの強制交尾が見られるようです。雄を強制交尾することにどんな適応的な意義があるのか不明ですし、もしかすると相手が雄か雌だか見分けられず、間違って雄を狙ってしまうのではと思ったりするのですが、同書にはそうした見方に反論するような観察例も紹介されています。たとえば、アマサギでは雄ばかり狙って強制交尾を仕掛ける雄がいるそうなのです。
ということで、サギたちの性のかたちはじつにさまざま。外見からは同じようにしか見えない彼らですが、その内面は一羽一羽きっと驚くほど違っているだと思います。彼らのことを知れば知るほど人と彼らの間を隔てている境界はどんどん曖昧になります。私たちはとかく生きものの中で人間だけが特殊なように思い込んでいますが、それは勘違いもいいところ。人間にあって他の動物たちに無いものなどほとんど何も無いのかもしれませんね。