アオサギの駆除に対する国の姿勢
- 2016年02月02日
- 保全
今回は少し堅苦しい話になります。内容はタイトルに示したとおりでアオサギの駆除に関してのものです。あまり世間で話題になる話ではありませんが、アオサギは有害鳥獣とみなされる場合があり、全国各地で何千羽ものアオサギが毎年駆除されています。そして、この駆除件数はここ十数年のうちに激増しています。問題はその駆除が不当な理由で行われることが多々あることです。このことについては私も関わっている北海道アオサギ研究会が「アオサギの有害駆除に係る問題点に関する報告」として詳しくまとめていますので興味のある方はぜひご覧下さい。
今回は、この問題多き有害駆除に対し国がどのような考え方をもっているのかを話題にしてみたいと思います。北海道アオサギ研究会では上記報告書にもとづき、一年以上前に国に対して3つことを要望しました。その後、長い間、何の返事もなかったのですが、再度、回答するよう催促してみたところ、先月中旬になってようやく簡単な回答が届きました。以下、それぞれの要望と回答を見ていきたいと思います。なお、3つの要望のうち捕獲実績を管理するシステムの整備については、国も問題改善の意思をもっているようなのでここでは割愛します。
まず、それ以外のひとつ目の要望、アオサギを「特に慎重に取り扱う」べき種へ変更すべきとの要望です。「特に慎重に取り扱う」べき種というのは、国の定めた「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」で以下のように規定されています。
狩猟鳥獣、ダイサギ、コサギ、アオサギ、トビ、ウソ、オナガ、ニホンザル、特定外来生物である外来鳥獣、その他の外来鳥獣等(タイワンシロガシラ、カワラバト(ドバト)、ノヤギ等)以外の鳥獣については、被害等が生じることはまれであり、従来の許可実績もごく僅少であることにかんがみ、これらの鳥獣についての有害鳥獣捕獲を目的とした捕獲許可に当たっては、被害の実態を十分に調査するとともに、捕獲以外の方法による被害防止方法を検討した上で許可する等、特に慎重に取り扱うものとする。
つまり、現状ではアオサギは「特に慎重に取り扱う」べき種から外されているわけです。以下、研究会からの要望と国の回答です。
要望 | 平成19年1月に告示された鳥獣保護法の指針以降、駆除を目的とした捕獲を許可する際の「特に慎重に取り扱う」べき対象種からアオサギが除外されている。この措置は計画性のない安易な駆除を助長し、結果としてアオサギの被害を拡大している可能性がある。アオサギは明確な個体群構造を示す種であることから、駆除による影響が個体群レベルで顕在化しやすく、個体群構造の不安定化がさらなる被害をもたらす場合が多い。このため、アオサギの鳥獣管理は個体群構造を理解した上で周到な計画に基づいて行うことが不可欠である(詳細は報告書5.参照)。以上の理由により、アオサギを「特に慎重に取り扱う」べき種へ変更することを求める。 |
回答 | 鳥獣の保護・管理においては、地域の実情や種の特性などに応じて、被害の防除・個体数の管理・生息環境の整備を行う必要があります。このことを踏まえ、本基本指針においては、有害鳥獣捕獲のための捕獲許可は原則として防除対策をしても被害等が防止できないと認められるときに行うこととしています。ご指摘の「特に慎重に取り扱う」としている種は、被害等が生じることがまれである、ないしは、従来の許可実績がごく僅少である種を指しているに過ぎず、それ以外の種を無秩序に駆除することを容認する趣旨ではありません。 |
正直なところ、国からのまともな回答など端から期待してないのですが、案の定、今回の件についても期待に違わず見事に的外れな回答でした。無秩序な駆除が容認される種があるなどといったい誰が考えるのでしょうか? こういう答え方をされると、質問をわざとはぐらかそうとしているのか、それともまともに答える能力が無いのか、どちらなのか理解に苦しみます。
話を戻しますが、そもそもこの分類には、被害の生じる頻度と従来の許可実績数というたった2つの基準しかなく、そのことがさまざまな問題を生む原因となっています。駆除によってその種にどのような保全上の悪影響が想定されるかといったことはまるで考慮されていません。アオサギなど集団繁殖を行う種は、その特殊な個体群構造を考慮した上で独自の管理計画をつくるべきですが、当然、そういったこともことごとく無視されています。何が悪いと言って、こうした安易な二分法そのものが問題なのです。アオサギを「特に慎重に取り扱う」べき種に入れるか外すかといったことはむしろ二次的な問題でしかありません。本来であれば、分類法を再検討するか分類の必要性そのものを問い直すべきなのです。
続いて、もうひとつの要望。こちらは繁殖期間中の駆除を禁止せよというものです。
要望 | アオサギの繁殖期間中の駆除(コロニーでの駆除を含む)は、法律、倫理の面で問題であるばかりでなく、科学的な鳥獣管理を事実上不可能にするものである(詳細は報告書4.(9)および(10)参照)。このため、同期間中に生じる被害については、危急に対応が必要な甚大な人的被害がある場合を除き、防除、追い払い等、捕殺以外の方法で対処し、殺傷を伴う行為は全面的に禁止すべきである。このことを法ないし指針に明示することを求める。 |
回答 | アオサギの繁殖期間中の捕獲を含め、個別の種への対応については、種の特性、生息状況、被害状況及び地域の実情等に応じて、適切に実施されるべきものと考えます。 |
これまた期待どおりに愚にもつかない回答が送られてきました。適切に実施されていないから要望しているのに、適切に実施されるべきものと考えますなどと、どうしてこんな人ごとのようなことが言えるのでしょう? もっとも、アオサギの駆除は都道府県や市町村がその許認可業務を行っており、国が直接関与しているわけではありません。しかし、ここでの要望は、繁殖期の駆除の禁止を法や指針に盛り込めというもので、これは国が動かなければどうにもならない話なのです。
繁殖期の駆除禁止については、この問題に関心がある人でも、現実的ではないと考える人は少なくないと思います。しかし、都道府県レベルでは、同期間中の駆除禁止を「鳥獣保護事業計画」に明記しているところがいくつもあります。やればできるのです。国もはっきりダメと言えば良いところを、どっちつかずで放置しているために、問題のある駆除が各地で横行するのを許しています。その点、国は責任を免れません。
繁殖期の駆除については、既存の法律に抵触することや科学的な鳥獣管理の妨げになるといった実際的な問題はもちろんですが、それ以外に動物倫理という非常にデリケートな問題が含まれています。具体的には、たとえば子育ての期間中に親鳥を駆除すると、そのヒナも死んでしまうといった例が挙げられます。仮に百歩譲って親鳥の駆除が正当化できるとしても、ヒナには何の罪もありません。にもかかわらず、ヒナは保護者のいなくなった巣で、餓えるか捕食者に食べられるか、いずれにしても避けられない死をただ待つしかないのです。これは特殊な例ではありません。繁殖期に駆除を行えば、ヒナのいる巣では必ず同様のことが起こります。
こんなことはほんの少し考えれば誰でも分かることです。しかし、こうした事例については嫌悪感がもたれることはあっても、絶対的な善悪の判断基準を示すのが難しいため、ではどうすれば良いのかという話になるとうやむやにされがちです。国もそんなわけの分からないことに率先して関わりたくないのだと思います。となれば、動かしていくのは結局、世論ということになります。自らの心情に照らして、これは受け入れられない、とんでもないことだと、考え、声に出す人が多くなれば、やがてそれが民意になります。だからこそ私もここであれこれ書いているわけです。
国の回答についてはここに書いたとおりまったく納得できるものではありませんが、アオサギのような普通種を対象とした鳥獣管理について国がどのていどの意識をもっているか、あるいはもっていないかを少しでも分かっていただけたら幸いです。環境省はお金の無い小さな組織で、シカなど大きな被害を出す鳥獣や稀少鳥獣への対応で精一杯なのは分かります。アオサギの問題など関わっている暇はないというのはおそらく事実でしょう。しかし、やるべきことができていないのもまた厳然たる事実なのです。そのために不当に理不尽に多くのアオサギが殺されています。環境省の苦しい事情を汲み取ってなどと悠長なことはとても言ってられません。ということで、研究会のほうでも補足意見を環境省宛にすでに送付したところです。その内容についてはこちらに全文を載せていますので、ここに書いたことの繰り返しになりますが、興味のある方はぜひご覧下さい。