コウノトリ誤射と駆除への問題意識
- 2017年05月31日
- 保全
先日、島根県でコウノトリがサギと間違えられ撃たれるという事件がありました。事件の内容は以下引用のとおりです。これはこれで大問題なのですが、私はむしろこの事件への人々の意外な反応に驚かされました。サギが駆除されていることについて関心をもたれる方が予想外に多かったのです。
島根県島根県雲南市教育委員会は19日、同市大東町の電柱で営巣し、4月にヒナの誕生が確認されていた国の特別天然記念物コウノトリのペアのうち、雌が死んだと発表した。猟友会の会員が、駆除の期間中だったサギと誤認し、射殺したという。(2017年5月19日付け朝日新聞より一部抜粋)
この事件が大きく報道されたのは、コウノトリが特別天然記念物で国内に僅かしか生息していないという希少性に対する関心と、それを誤射したという特異な状況が相まってのことだったと思います。いかにもメディア受けしそうな話題ですね。私はテレビのことはよく知りませんが、少なくとも新聞は各社こぞって報道し、全国的なニュースになりました。各新聞社の報道内容は上に載せた朝日の記事とどれもそんなに変わりません。ただ、サギの名前は出さず、単に「害鳥と誤認」したと書いている新聞もありました。このような文脈で改めてこの語を見るとつくづく酷い言葉だなと思います。しかもサギという語もなくただ害鳥…。まるでサギの存在自体、無視されているかのようです。ついでに言えば、コウノトリのことを天然記念物と呼ぶのもどうにかならないものかと思いました。鳥を「物」としか見ない見方、こんなのはもう何十年も前に廃れてて良いはずです。たかが言葉の問題だとは思いません。人の認識は言葉をもとにして作られるものなのですから。
話が大きく逸れてしまいました。今回の事件で私が注目したいのは、コウノトリの誤射という本筋でなく、サギの駆除という隠れた問題に目を向ける人が多かったことについてです。実際、ツイッターでは何故サギが駆除されているのか、何故サギが駆除されなければならないのかという疑問をツイートする人が大勢いましたし、当サイトやアオサギ駆除についての報告書へのアクセスもこの一件で劇的に増えました。このように、今回の件がサギ類の駆除に疑問をもつきっかけをつくったのは間違いないようです。
ちなみに、今回の報道はどの新聞でもサギと書かれているだけで、何サギなのか種名を特定している新聞は私の知る限りありませんでした。なので、私は当然のごとくアオサギのことだと思っていたのです。私に限らずニュースを見聞きした多くの人はそう思ったのではないでしょうか。けれども、ネット上の情報を拾い集めると、間違えられたのはアオサギではなくどうもシラサギのようですね。まあ、アオサギにしてもシラサギにしてもコウノトリとの違いは一目瞭然なのですが。
今更あらためて書くまでもなく、サギの駆除は全国的に相当な規模で行われています。たとえばアオサギでは全国の生息数の10分の1かそこらが毎年駆除されています。他のサギ類もアオサギ同様、駆除はやはり野放し状況。それなのに大抵の人たちはサギ類が駆除されていることなどまず知りません。シカやクマなど、被害が広範囲で被害を被る人も多くニュースなどでもよく取り上げられる鳥獣についてはよく知られていますが、サギ類の被害は局所的で被害を被る人も限られるので問題がなかなか社会に知れ渡らないのです。それを良いことにいい加減な駆除がまかり通っているのが現状です。
そして、こんなことではダメだ、なんとか社会に問題を認知してもらわなければ、と思って作ったのが上述の報告書というわけです。しかし、作ってはみたものの、予想どおり行政にはのれんに腕押しでしたし、世間の反応もほぼ皆無といった状態でした。鳥獣の駆除のことをわざわざ気に留めるような奇特な人はそうそういないのだろうと、正直なところかなり落胆していたのです。そういう経緯がありましたから、今回の一件でサギ類の駆除についての関心が高まったことは私にとって意外であり嬉しい驚きでした。
今回の件はサギ類の駆除を扱ったニュースではありません。にもかかわらず、サギ類の駆除について問題意識をもつ人が多かったという点に私は何かとても力強いものを感じています。今回だけを見れば、この問題意識を共有できたのは日本人全体のごく少数の人たちに過ぎないかもしれません。けれども、潜在的に共有できるかもしれない人たちは十分に多いと思うのです。
ともかくきっかけは何でも良いのです。駆除を担当している行政に直接物申したところで効き目はほとんどありません。行政のやっていることを変えるもっとも効果的な方法は世間の問題意識を高めることです。今回の出来事がそのきっかけのひとつになる可能性は十分あります。そうなれば、犠牲になったコウノトリも少しは浮かばれると思うのです。