ヘッチャエバ
- 2024年02月22日
- その他
北海道が和人によって探検されたごく初期の記録に「蝦夷拾遺」というのがあります。江戸中期、天明年間に著されたもので、これをたまたま興味本位で読んでいたところ、サギのアイヌ名が載っているのに気付きました。「ヘッチャエバ」というのがそれです。サギのアイヌ名を記したものとしてはおそらくこれが最初のものでしょう。アイヌ語は地域によってさまざまなバリエーションがありますし、同じ語でも音をカタカナ表記するとばらつきが出るので、単一の語で表される単語はあまりないのではと思います。アオサギの場合も、「ペッチャコアシ」、「ペッチャコアレ」、「ペッチャエワク」などいろいろな呼び名があります。蝦夷拾遺の「ヘッチャエバ」もたぶんこれらと同じ系統の呼び名で、おそらくは「ペッチャエワク」とほぼ同じかと思います。音を書き留める人によってこれらはどちらにもなるでしょうから。
そんなことで、改めてこれらの呼び名の意味を調べてみました。すると、ペッチャの後につづく「エワク」(おそらく「エバ」も同じ)に意外な意味があることを知りました。これまでは「エワク」は単純に「住む」という意味で、川岸に住んでいる鳥のことなんだなと思っていたのです。ところが、「アイヌ語沙流方言辞典」によると、「エワク」というのは、ただ住むのではなく、神が住むことを言うらしいのです。こうなるとちょっと物々しいことになってきますね。北海道には、コタンクルカムイ(シマフクロウ)やサルルンカムイ(タンチョウ)など、カムイ(神)の名を冠した鳥たちがいますが、アオサギはカムイの名こそもたないものの、川岸に住んでいらっしゃる神様、のような意味になるのではないかなと。もっともこれはアイヌ語に門外漢の私が勝手に類推しているだけで信憑性のかけらもありません。でも、もしこれが本当であったとしても私はさほどの意外性は感じない気がするのです。ああ、やっぱり、と思う方も多いのではないでしょうか。