熊本日日新聞
2007年11月22日
アオサギに魚与え8年 互いに信頼関係
熊本市の江津湖で毎日魚釣りをしている元会社員、古殿郁(ふるどの・かおる)さん(70)=同市健軍四丁目=は、釣り糸が足に絡まりけがをしたアオサギに、釣った小魚を与えている。「アオ」と名付けられたこのアオサギもすっかり古殿さんを信頼、湖に糸を垂らすその横で、まるで「まーだ?」と待っているようだ。
退職してから釣りを日課としている古殿さん。8年ほど前、1羽のアオサギが目に留まった。不始末で湖に残されたとみられる釣り糸が左足に絡まって、うまく魚を捕れない。「おなかが空いていないか心配。かわいそう」とそれからは毎日、湖の上流で釣り上げたフナなどを投げ与え始めた。
最初は警戒していたアオサギだが、芝生に落とされた魚をのみ込んでからは慣れるように。古殿さんも小魚を投げる距離を徐々に縮めた。今では「アオ、おいでー」と叫ぶと飛んで来て、古殿さんから五メートル以内にたたずむようになった。
熊本市動植物園は「野鳥のため本来は人に対する警戒心が強いはず。お互いの信頼関係ができたのでしょう」。江津湖を散歩している近くの主婦栗山孝子さん(68)は、「アオちゃんもきっと『ありがとう』と感謝しているでしょうね」と目を細めて見守っている。
昨冬、アオは絡まった釣り糸が原因で左足の指をすべて失ってしまった。「釣れない日は申し訳なくて、スーパーへ行って買うアジを食べさせるんです」と、照れくさそうに笑った古殿さん。「代わりにエサを捕ってやらないといかんから、長生きせんとな」(宮崎達也)