「オタマジャクシが空から降ってきた」-。今月上旬に石川県の能登半島から始まった騒動が、全国各地へ広がっている。「鳥が落とした」「突風が運んできた」など、専門家の見方が分かれ、原因ははっきりしていない。騒ぎに便乗したいたずらも含まれているとの見方もある。
カエルや魚も
騒動の発端は、石川県七尾市の市民センター駐車場。今月4日夕、職員が「ポン、ポン、ポン」という音を聞いて振り返ると、小雨に交じってオタマジャクシが降ってきたという。約100匹が散乱していた。その後、愛知県知立市や、長野県須坂市など、北は東北から南は九州までの各地で、数十匹単位でオタマジャクシの死骸(しがい)が見つかった。福井県鯖江市でも約40匹が新たに確認。中にはカエルや小魚が交じる例もあった。
消化されず?
海や川の生き物が竜巻で巻き上げられることはあるが、気象庁によると、竜巻は観測されていない。愛知教育大の大和田道雄特別教授(気候・気象学)は「気象とは別の要因では」。「竜巻や積乱雲の場合、強い気流の影響で看板が倒れたり、木の枝が折れたりと、周囲に影響が出るはず」と説明する。一連の騒動では、周辺に被害はみられない。
そんな中で“鳥説”を支持するのは、名古屋市野鳥観察館職員近藤孝さん(43)だ。オタマジャクシを食べるサギやカワウが子育ての時期を迎え、「巣に戻る途中、カラスなどに驚き、飲み込んだものをはき出した可能性がある」と話す。「丸のみするため、オタマジャクシが消化されず原形をとどめていても不自然ではない」とする。ただ、「100匹は量が多い。そんなに一度に飲み込めるだろうか」と、首をひねる。
台風並み強さ
七尾市のケースについて「強い低気圧があり、突風やつむじ風が起こっていた」と分析し“風説”を唱えるのは、早稲田大理工学部の大槻義彦名誉教授(物理学)。「突風は風速10~15メートルにもなり、台風の一歩手前。水面近くにいたオタマジャクシが飛ばされたのでは」。一方で、大槻名誉教授は「降った目撃例は少なく、(報告例の中に)いたずらも含まれている可能性がある」とも指摘した。
ただ、地形も鳥の習性も突然、変わったわけではない。「今年始まった話ではなく、みんな注意深くなって報告が相次いだ」と指摘する専門家も。北陸学院大の丸山久美子教授(心理学)は「世情が不安定な時は、非日常的な出来事に意味を感じ、騒ぎがエスカレートしやすい」とした。