本格的な春を前に、野鳥のウやサギが紀南の繁殖地で巣作りを始めた。和歌山県田辺市下万呂の「天王池」では数十ペアのカワウとアオサギが産卵の準備を進めている。一方、釣り糸を張り巡らすなど防鳥対策を講じている国の特別天然記念物「神島」には、いまのところ飛来は確認されていないが、管理する市は警戒を強めている。
天王池は市所有の農業用ため池で広さ約1.7ヘクタール。池のほとりにある森に、2005年ごろからカワウやサギ類が集まり始めた。その数は年々増え、昨年は500羽に膨れ上がった。管理する水利組合は、鳥のふんなどで汚れた水の入れ替えと鳥を飛来させないため、昨秋、約30年ぶりに池の水をすべて抜いた。その間、鳥の姿はほとんど見えなくなった。
しかし、農繁期に備えて昨年末に水門を閉じ、今年2月上旬から水位が高くなると、次第に鳥が飛来している。水利組合では、毎年農閑期に水を抜いて野鳥が飛来しにくい環境をつくることも検討している。
日本野鳥の会和歌山の会員によると、田辺市やその周辺ではカワウやサギ類は5、6年ごとに繁殖地を変える傾向にあるといい、自然にいなくなる可能性があるという。
田辺湾に浮かぶ神島では近年、カワウやサギ類のふん害に悩まされてきた。田辺市教委は09年から島の木々に釣り糸を張り巡らせて飛来を阻止する対策を講じている。この方法は手間が掛からず経費も少なくて済み、効果も高いという。これまで5回実施して、今年も予定している。
神島では1988年から数年間、カワウの大群がねぐらとして利用した影響で、おびただしいふんが林床や樹木に降り積もった。森林の一部が荒廃、がけの崩壊まで起こった。その後も断続的にふん害は続き、市は対策に苦慮。試行錯誤しながら釣り糸を張り巡らす方法を考え出した。
市教委は「神島は国民の宝。今後も糸張りを継続し、この状態を保っていきたい」と話している。