【釣りバッカ天国】ワシの自慢をさせてください。いえね、私じゃなくて、本当にワシのことなんです。舞台は山梨県小菅村の「小菅トラウトガーデン」という管理釣り場。オープンから8年、この池に君臨し、カワウの被害を完封してきた1羽のオジロワシの真実を、聞いてやってください。(スポニチAPC 若林 茂)
◎彫刻だけど漁協監視員も脱帽の働き ~山梨「小菅トラウトガーデン」
釣り人が30人も入れば満員という小さな池。しかし、魚影の濃さは日本一、最近は甲斐サーモンが釣れることでも人気…。こんな釣り場の象徴であるワシの、まずは誕生秘話から。
06年の夏だった。小菅村漁協の組合長で、養魚場を経営する古菅(こすげ)一芳さんからトラウト・エリア開設の計画を聞き、池の穴掘りに始まる全面プロデュースを筆者が担当することになった。
この計画、養魚場直営という利点は大きいものの、水源の確保、狭い敷地、釣り場へのアクセスなど、不安もいっぱい。中でも最大の難問はカワウ対策だった。02年から小菅川に出没するようになっていたカワウは、村中心部の「フィッシング・ヴィレッジ」や最下流部の「キャッチ&リリース区間」で猛威をふるっていたからだ。
◎アオサギも寄せ付けず
「カワウの天敵である“猛きん”を見張りに役に」…温めていたアイデアは偶然&突然に実現した。旧知の彫刻家・若林寛さんの仕事場で精密なオジロワシの彫像に遭遇、これだ!とひらめいた。日大彫刻科出身の造形作家も「面白い!」と賛同してくれた。北海道の某郷土資料館用に作られたオジロワシの原型からかたどり複製された“守護神”は、擬木(ぎぼく)にとまった姿で池のインレット近くに据え付けられたのである。
効果は予想を超えるものだった。07年3月のオープンから8年半、カワウはもとより、近年台頭した難敵・アオサギの一羽たりとも寄せ付けていない。まさにあっぱれである。奥多摩湖周辺にはカワウのコロニーがあって、池の上空は飛行コースになっているというのに。
◎彫刻家・若林さんの協力で実現
「カワウはどう猛で、神経質で、ずる賢い。毎日がやつらとの真剣勝負です」というのは小菅村漁協の監視員で小菅川の「カワウ追い払い係」を自認する加藤源久さんだ。取材日も「朝5時にC&R区間に4羽、30分後には別の5羽が上流に向かった」と詳しい。その加藤さんが強力パチンコとロケット花火の束を手に語る。
「このごろね、やつらが私の車を覚えてね、逃げるんですよ」とうれしそう。そして、「オジロワシには及びませんけどね。あれは凄いもの。アイデアの勝利でしたね」
ワタシの自慢で締めさせていただきました。
◎本物と間違って小鳥が疑似攻撃
○…去る7月初旬のことだった。トラウトガーデンの三方を囲む森でホトトギスの声。あの「トッキョ、キョカキョク」の甲高い声は、やがて2羽に増え、鳴きながら池の周囲を10分以上も飛び回った。小鳥が捕食者であるフクロウなどの猛きん類に対し、集団で疑似攻撃する現象を「モビング」という。このホトトギスの行動がモビングかどうかは定かでないが、怪しいワシに対する異常な反応だったのは確かだ。