今年も春先から兵庫県丹波篠山市内各地で野鳥の「サギ」が営巣し、中には100羽を超える大規模な巣の集まり「コロニー」を形成した。幼鳥が巣立ちを迎えたことで盆を過ぎたころから日中、巣にいる個体数は減少しつつあるが、少し前までは辺り一帯にまき散らされるふんの悪臭や、夜通し聞こえる鳴き声に近隣住民が頭を抱えた。数が減りつつあることで「ひと安心」の時期ではあるものの、同時に来年の対策を考えないといけない時期。ただ、昨年度、対策に乗り出したある自治会では、今年、再び営巣があり、「”いたちごっこ”状態」と悩む。一方、サギにとっては、営巣地が減り続けており、自然との共生の難しさを如実に物語る。
洗濯物にふん 車は真っ白
サギは繁殖期となる春先から夏の終わりにかけて集団で営巣し、たくさんの巣が一カ所に集まったコロニーを形成する。巣を作りやすい大木があり、近くに川や池などの餌場がある立地を好む。
同市河原町の篠山川沿いにあるムクノキの大木には一時、ダイサギやアオサギが幼鳥も含めて100羽以上生息。市によると「おそらく過去最多の数」という。周辺にはふんがまき散らされ、餌の魚や巣から落ちた幼鳥の死骸が悪臭を放った。
近くで暮らす住民は、「車はふんで真っ白。洗濯物に落とされることもよくあった」と漏らす。
このムクノキは以前にも集団営巣があったが、枝の一部が県道に張り出していたため、県丹波土木事務所が枝を伐採。しばらく大規模化は免れていたが、枝が茂り始めると再びコロニーとなった。
同事務所は再度、枝が通行を阻害している可能性があるため、今年度中に調査に入り、問題がある場合は一部、木を伐採する予定という。
“里帰り”の末、増加 木伐採も再び
市森づくり課によると、今年は河原町のほか、同市黒田で大規模、同市福井などで中規模のコロニーを形成した。
福井の住民によると、4―5年前から営巣が始まったという。最初のうちは10羽ほどだったが、生まれたサギが成長し、翌年に”里帰り”することを繰り返した結果、最も多いときで50羽以上にまで増えた。
「朝晩の鳴き声はすさまじく、まるで人が集団で叫んでいるみたいにも聞こえる。たまったもんじゃない」
昨年度、自治会として対応に乗り出し、営巣していたケヤキやカシなどを伐採。これでひと安心かと思いきや、今春、サギは戻ってきて、伐採した場所の真横の木にとまり始めた。
営巣しないようにと、住民有志が交代でロケット花火を打つなどしてきたが、しばらくすると、「右向いて左見たら戻ってくる」状況に。そして、また繁殖が始まった。住民は、「今年も木を切ったとして、また来年、巣を作られるかもしれない。なんとかしないといけないとは思うけれど、なかなか難しい問題」と話す。
被害顕在化 対策に補助金も
市内では以前、中心市街地にある春日神社の裏山で大規模に営巣。被害が顕在化したため、周辺住民総出で追い払いを行い、営巣した木の枝を伐採するなどした。現在は営巣しておらず、追い払いに成功したとみられる。
その後も各地で被害の報告が相次いだことを受け、市は2015年、「集団営巣地被害対策事業補助金」を創設。自治会や農会を対象に20万円を交付し、木の伐採や追い払いの道具の購入費、対策を学ぶ研修会などの費用に充てられるようにした。福井自治会もこの補助金を活用して伐採した。
鳥獣保護法では、野鳥も含めた自然動物の捕獲や殺傷などを禁じており、営巣してしまうと木を切ることはできない。同課は、「対策するなら巣立った後のこれからがタイミング。さまざまな手法や専門家を紹介することもできる。まずは地域で対策するためにまとまってもらい、相談してほしい」と呼びかける。
専門家「サギも生態系の一つ」
日本鳥学会会員の片岡宣彦さん(61)は、「木(枝)を切ればもちろんどこかへ行くが、また違うどこかの場所で巣を構えるだけ」と言い、「3月中旬からしっかり監視し、近付いてくるサギを追い払うのが有効。ただ2週間ほど毎日続ける根気が必要になる」とする。
一方、「コサギ、ゴイサギが全国的に急激に数を減らし、丹波地域ではアマサギがほぼ見られなくなった。原因は越冬地の東南アジア方面にあるかもしれないが、日本では追い払われることが多いため、安心して繁殖できないことも要因の一つかもしれない」とし、「サギも里山の生態系の一員。『ここだったら巣を構えても仕方がないか』と思える場所をつくってやることも必要だ」と話している。