穂高町内の養魚場で3月末、アオサギやゴイサギの死がいが数十羽山積みになっているのが見つかった。その後の調べで、サギ類による養魚の食害に耐えかねた業者が「このままでは死活問題」と、無届けで捕獲・駆除していたことが分かった。町は県に対し、初めてアオサギ駆除の許可を求めるなどの対策に乗り出したが、野生鳥獣保護と業者の「生活」とのはざまにあり、抜本的な解決にはさまざまな課題を残している。
無届けで捕獲「やむを得ない」
周辺を万水川や穂高川の水系に恵まれた同養魚場では、町特産のニジマスを養殖しているが、数年前からサギ類がニジマスを食い荒らす被害が頻発。傷がついただけでも商品価値を失ってしまうため、被害を食い止める対抗策として、とらばさみを仕掛けて捕らえていた。しかし、狩猟期間(11月15日—2月15日)以外の狩猟は許可を得ないと狩猟法に抵触し、とらばさみの使用にも登録が必要。いずれも所定の手続きを取っていなかった。
一般的には養殖升に網をかけるなどの防除策を講じるが、監視が弱まる夜間や早朝の被害は防ぎきれず、業者側は「やむを得ない自衛手段」と訴える。同養魚場では被害額が年間約350万円にも上っているという。町養殖振興会長の丸山忠雄さん(67)は不況で魚の単価が下がっていることもあり、「鳥に食われてしまったらたまらない」とため息を漏らす。
町が有害鳥獣に指定
鳥獣保護の観点から、県に慎重な対応を求められた町は、4月18日に開いた有害鳥獣駆除対策協議会の中で、同養魚場で多く見つかったアオサギをゴイサギと同様に有害鳥獣に加えることを決め、21日に県に狩猟の許可(年間90羽)を求めた。地元猟友会らの協力を得て5月下旬から、狩猟期間を除き銃のみを使用して駆除を始める。
穂高町の猟友会員らによると、15年ほど前に有明古厩地区の松林にゴイサギが営巣し、アオサギやダイサギもすみ始め一帯はコロニー化。今ではアオサギは約200羽(推定)生息している。狩猟鳥獣に指定されていないことから、町は過去に何度か巣のある木を伐採するなどの対策を試みたが、対処が追い付かず増加の一途をたどった。
自治体に託された判断
狩猟法改正に伴い平成12年4月、一部を除いて有害鳥獣駆除の許可権限は環境庁(現・環境省)から県に移った。地域の実情に合った迅速な対策を取りやすくなったが、各自治体の考えが尊重される一方、判断を任される側の態勢づくりも必要となった。
県自然保護研究所で鳥類を研究する堀田昌伸さん(45)=長野市=は「駆除は対処療法的なもの。許可は簡単だが、周囲の理解を得るためにも、個体数や養魚場での採餌(さいじ)などサギの生息状況、具体的な被害を把握するなど十分な説明が必要」と提言。野生動物保護団体、被害住民などさまざまな立場から十分な論議を重ねる必要性を説く。
猟友会員でもある穂高町の鳥獣保護員・小原彊さん(67)は「野生鳥獣の保護と駆除のバランスを考えながら適正な数を判断し、対応していかなければならない」と強調。今回の“事件”を機に鳥獣駆除に対する関心が高まるのを期待する。
北安曇郡白馬村と大町市は県の許可を得て昨年、初めてサギ被害の対策に乗り出した。両市村では昨年5月中旬から6月にかけてアオサギによる水稲踏み荒らしが相次ぎ、白馬村は水田約240ヘクタール、大町市は水田約100ヘクタールの被害を受けた。大北地区猟友会常盤支部長で農業を営む中山耕平さん(67)は「駆除の許可は下りても思うようにいかないのが現状。被害ゼロとはいかないが、継続して取り組まなければならない問題」と、駆除の難しさを指摘した。
地域や関係機関と連携
穂高町は駆除にあたって関係機関の理解と協力を前提に、「住民に十分な説明をしていきたい」としている。立地条件や作業方法などが異なる町内約15の養魚場に、それぞれ被害額の算出を求め、町全体の被害を早急に把握する方針だ。駆除に付随して死がい処理方法や処分場所など検討すべき課題も残っており、町は地域や関係機関の声を聞きながら、解決を探る糸口を見いだしていかなければならない。
(瀬川智子記者)