◇漁業被害、糞害、騒音…
カワウやアオサギ、カワアイサなど魚食性で大型の鳥類が近年、県内で増加し、漁業被害をはじめ、集団営巣による糞害(ふんがい)や騒音などの問題を引き起こしている。いずれも、山国の信州でかつては少なかった鳥たちだ。数が増えた要因は河川や湖沼の水質改善などとされているが、よく分かっていない面もある。生息と被害の現状やその生態、関係者の対応を探った。【武田博仁】
◆カワウ
◇アユやウグイ、食害は年1億円 県など広域で対策
魚食性鳥類のうち、漁業への打撃が最も大きいのがカワウだ。1羽が1日約500グラムも魚を食べる「大食漢」で、県農政部によると、アユやウグイなどの被害は08、09両年度ともに1億円を超えると推計されている。
カワウは体長約80センチ、体重約2キロ。「ウ飼い」で有名なウミウと同様、巧みな潜水能力を発揮して魚を捕食する。群れで林をねぐらとし、繁殖期にはコロニー(集団営巣地)を形成。糞で木が枯れたり、悪臭や騒音が起きたりする。
1950年代には内陸を含む本州以南に広く生息していたとみられるが、高度成長期に水質悪化などで激減、一時は絶滅の恐れもあった。しかし80年代から増加に転じ、環境省によると、78~04年の26年間に全国のコロニー数は15倍に増えた。
県内でも、90年代後半から天竜川流域など各地で増え始めた。今は長野市や飯山市、生坂村、駒ケ根市などにコロニーや集団ねぐらがあり、総数は1000羽以上とみられる。
このため、漁業関係者は駆除や追い払いを強化。佐久漁協が04年から千曲川流域で、卵を石こう製の偽卵にすり替える作戦を展開、09年から繁殖しなくなる成果を上げた。ただ、カワウは県境を越えるほど移動範囲が広く、一地域の取り組みでは効果が限られる。長野を含む15府県は広域協議会を設けて、対策を進めている。
◆アオサギ
◇10年で急激に増 要因に「塩カル」も?
カワウに次いで漁業などの被害が目立つのがサギ類だ。全国的に勢力を広げ、県内では特にアオサギが目立つようになった。信州大教育学部の中村浩志教授は「ここ10年ほどで急激に増えている」と指摘する。県環境保全研究所の堀田昌伸主任研究員によると、アオサギの県内のコロニーは80年代まで1、2カ所だったが、90年代後半から急増。10年3月の調査では22カ所で、ピーク時には計約700巣を確認した。
アオサギは全身が灰色で、全長約90センチ。水辺を歩いたり、立ち止まって待ち伏せするなどして魚を捕らえる。県が09~10年、91市町村に行ったサギ類の調査では、39市町村で漁業被害が、また15市町村で騒音や糞などの生活被害が報告された。漁業被害は河川と養魚場で多い。被害の大半はアオサギとされる。ただ、駆除や追い払いも進み安曇野市の養魚場は「サギの被害は最近減った」と話す。
アオサギやカワウが急増した理由は、水質改善や農薬の減少が指摘されるが、専門家も「よく分からない」と言う。写真家の宮崎学さんはスパイクタイヤが禁止された80年代以降、道路の滑り止めにまかれるようになった塩化カルシウムに注目。これが河川の塩分濃度を上げ、カワウなどが好む「汽水」が増えた可能性を指摘する。