アオサギを議論するページ

N.Y.の事件と千葉の事件

去年の夏、ニューヨークのとある川のほとりで、男二人がオオアオサギに石をぶつけたという事件がありました。銃で撃たれたとかではなく、石をぶつけられたのですから、よほど近くにいたのでしょう。サギたちが人を怖れなくなるのは本来は良いことなのでしょうけど、こういう碌でもない馬鹿がいるうちは、サギと人との距離が縮まることを素直には喜べませんね。被害に遭ったオオアオサギは、すぐリハビリセンターに連れて行かれたそうですが、羽も脚もずたずたの状態で手の施しようもなく、止むなく安楽死させられたということです。石を投げた当人は、事の始終を周囲にいた人々に目撃されており、ただちに通報、二人とも逮捕されています。なお、この事件は、投げた石がたまたまサギに当たったというようなものではなく、二人の男が相当な数の石を投げています。以下に当時の新聞記事を載せておきますので、詳しくお知りになりたい方は御覧になってください。5つのリンクのうち、3つは新聞社、残り2つはテレビ局とラジオ局で放送されたものです。ともかく、当時はけっこうな騒ぎだったのです。

110811 Killing of great blue heron sparks outrage, raises questions
110813 Irreparable damage – Blue heron beyond treatment after men hit it with a rock
110819 Men accused of torturing great blue heron in Jay
110820 Alleged killers of heron could face higher charges
110822 Essex County men injure blue heron

そして、つい先日、この二人の被告に判決が下されました。罰金、502ドル50セント。ひとつの命をこんな残虐非道なやり方で奪っておいて、4万円弱の金額で罪が償われるとはあまりにも馬鹿げています。記事につけられた読者からのコメントにも、もっと厳罰にすべきだという声が多くありました。もっとも、ニューヨークの州法では、この罪に対しては悲しいことにこの額が上限なんですね。6ヶ月以下の禁固刑があるものの、どうもそちらのほうも適用されなかったみたいです。なお、犯人のもう一人はこれまでにも相当の悪事を働いてきたようで、犯行当時も執行猶予期間中であり、即、刑務所送りとなりました。以下は判決についての記事です。

120113 Adirondack men sentenced for great blue heron attack on Ausable River
120113 NY men sentenced for stoning Blue Heron
120113 Men sentenced for hitting heron with rock

ついでなので、サギ類を巡る法律とその罰則について少し触れてみたいと思います。まずは、この事件のあったアメリカの事情から。今回の事件はニューヨーク州の州法に則って裁かれたと上に書きました。ただ、記事を読むと、州法でなく連邦法で裁かれる可能性も多少はあったようですね。この連邦法は渡り鳥条約法と呼ばれているもので、いくつかの二国間条約(日米間の渡り鳥保護条約も含む)を遵守するためにつくられた国内法です。これで裁かれると罰則はもっと重くなり、1万5千ドル以下の罰金か半年以下の懲役、またはその両方となります。これは1羽あたりの量刑で、犠牲になった鳥の数が多ければその分だけ積算されます。そのため、罰金も数万から数十万ドルになり、刑期も何十年に及ぶこともあります。何十年もの懲役刑が科されたという話はまだ聞いたことがありませんが、罰金が多額になることは希ではありません。とくに企業が引き起こす環境汚染が原因となった場合は、その被害が大きいため、数十万ドル単位の罰金が科せらているケースを時々見かけます。アメリカの渡り鳥条約法については以上のように私は理解しているのですが、専門ではありませんので、もし間違いがあればご指摘ください。

さて、日本の法律はどうでしょうか。日本でアオサギを直接守ってくれる法律は鳥獣保護法しかありません。これに違反してアオサギを殺傷したり卵を獲ったりすると、100万円以下の罰金か1年以下の懲役に処せられることになります。しかし、この罰則はあくまで上限であって、実際にはニューヨークの事例のようにがっかりするような判決が多い気がしてなりません。たとえば、もう7、8年前の話ですが、千葉県成東町でサギ類のコロニーが破壊された事件がありました。サギ類の鳴き声やフンが迷惑だというので、住民が子育て真っ最中のコロニーに重機で乗り入れ、199羽ものサギたちを殺したというとんでもない事件です。
2004年9月22日(毎日新聞)『成東町のサギ営巣地破壊 容疑で53歳男性を書類送検』
もちろん、この男は鳥獣保護違反で告発され、翌年、下記のような判決が出ています。
2005年8月31日(東京新聞)『サギの繁殖地(コロニー)破壊 199羽を死なせた男性を起訴猶予』
事件そのものも信じがたいことながら、この判決も信じられません。懲役もなし、罰金もなし。起訴猶予というのは、一応、前歴として記録はされますが、前科にすらなりません。私なんかは50キロの道を80で走ったため一発免停で立派な前科者(たしかにこれは悪いこと)ですが、199もの命を奪った者が私より罪が軽いなどとどうして納得できるでしょうか。怒髪天を衝くとはまさにこのこと。これは思い出すたびに理性を失いかけますね。ともかく、こんなことで、法の効力が維持できるのかとはなはだ心配になります。

一昨日、読んでいた本に次のような一文がありました。この本はとくに動物について書かれたものではありませんが、今回書いたことにたまたま符号する内容だったので書き留めておきます。

遠くから見るサギは美しいけれど、手なずけられず、煮ても食べられず、おしゃべりも仕込めないから、人間がそういうものと関係をもつ唯一の方法は、破滅させることでしかない。 (マーガレット・アトウッド『浮かびあがる』)

ニューヨークでオオアオサギが殺された理由もおそらくはこれと同じでしょう。千葉のケースも、いろいろ理由付けはできるにせよ、人と動物の関係に還元してしまえば、やはり同じことです。この短絡的な思考の中では、サギの命は羽のように軽いと思わざるをえません。法はそのことにどれだけ気付いているのでしょうか。

池からサギを追い払う方法

今年もオタマジャクシの降る季節になりましたね。⇒ こちら
今回はサギが犯人だと認めているようです。とんでもない推測をして大騒ぎするのもさすがに疲れたのでしょうか。素直に認められると却って寂しい気もしますが。

さて、それは置いておいて別の話です。先日、当サイトを御覧になった方から釣り池でのアオサギ防除についてメールでご質問をいただきました。じつは養魚場や釣り池でのアオサギの食害に困って当サイトを訪れる方はけっこういらっしゃいます。「アオサギ 被害」とか「アオサギ 防除」とかで検索すると当サイトが一番上に出てくるので、幸か不幸かここに辿り着いてしまうのですね。それだけアオサギの被害対策についてまともに書いているところが無いということなのでしょう。それを思うと、曲がりなりにも有用な情報をまとめなければと思うのですが、いつものことながら思うだけで一向に前に進みません。

そんなことで、今回はちょうど良い機会なので、お答えした内容の一部をここに書き留めておこうと思います。まとまったものでなく、とりあえず思いつくまま書きます。

釣り池での防除が難しいのはネットやテグスといった物理的な防除法が使えないからなのですね。より自然に近い状態のままアオサギを近づけさせないようにするわけですからこれは難題です。以前は、水深を50センチもとれば大丈夫と思っていたのですが、実際はどうやらこんなふうに飛び込むこともあるようで、浅瀬をなくしたからといって必ずしも安全ではありません。ではどうすればよいかということでいろいろ考えてみました。ひとつの案が右の絵で表したものです。やはりここでもアオサギが水に入れないように水際の水深は50センチ以上にします。ただ、それだけではアオサギが飛び込む可能性があるので、ここに魚がいてもアオサギが簡単に見つけられないように水草を茂らせます。この区間は水際から少なくとも2メートルはとったほうがほうが良いと思います。あまり短いと飛び越えて深いほうへダイブする恐れがありますから。ただ、これは相当な工事になりますし、池をつくる段階でやっておかないと、被害があってからつくり直すのは何かと大変そうです。

次は、アオサギを驚かして追い払う方法です。これはとにかくアオサギをびっくりさせれば良いのですからいろいろな方法が考えられます。単純に犬を放し飼いにして上手くいっているところもあります。音を出す装置とかでもいいわけです。そんな中で今回紹介するのはスプリンクラー。動物が一定範囲内に近づくと水が自動的にまき散らされる仕組みのもので、スケアクロウというでアメリカの製品です。パッケージにオオアオサギが描かれているところを見ると、あちらも日本と同じでサギ類の食害に手を焼いているということなのでしょうね。なお、実際にお求めになりたい方はAmazonで買えば半額くらいになるようです。こちらのビデオで実際に動作している様子が見られます。猫も犬もアライグマもシカも、そしてもちろんオオアオサギも皆びっくりして逃げていきます。ただの水ですから動物や鳥を傷つけることもありません。こんなものでも使いようによってはけっこう効果があると思います。アオサギの食害に困っている方、一度ご検討されてはいかがでしょうか。

同じ目線で気にかける

コロニーが壊滅したという見出しで何事かと思ったら、竜巻にやられたのですね。アメリカのオオアオサギの話です。 ⇒ StarTribune(2011年5月23日付)

記事を読まなくても写真が全てを物語っています。ここにはもとも100前後のつがいが営巣していたんだとか。今はその面影すらありません。枝に点々と見えるのは呆然と立ち尽くすオオアオサギでしょうか。そして、最後の写真。これは衝撃的でした。

なぜこれがショッキングなのか、しばし考えてしまいました。もちろん死体が写っているというのはあります。でも、それだけではないような気がするのです。

アメリカでは今年、例年より多い竜巻が発生し、あちこちで大きな被害が出ているそうです。記事にある竜巻は日曜に発生したもので、人も死んでいます。にもかかわらず、早くも翌日の新聞にこの話が載っているのです。それだけでもかなり異例な扱われ方だと思います。さらに、普通ならコロニーが壊滅したという話だけで終わりのはずなのに、災害でヒナの命が多数奪われたことにはっきり言及し、写真まで載せているわけです。人間の場合なら、災害があれば人的被害が記事になるのは当たり前。けれども、野性の生き物についてこのような取り上げ方をするのはとても珍しいのではないでしょうか。これは一見なんでもないようで、じつは画期的なことかもしれません。野性の動物に対して、人に対するのと同じ目線をもっていなければ書けない記事だと思います。

ついでにもうひとつ。これも数日前に載ったオオアオサギの話です。 ⇒ Akron Beacon Journal(2011年5月20日付)

御覧のとおり、オオアオサギの営巣木が巣をつけたまま倒れかかっています。どうも地盤が緩んだのが原因のようですね。1、2週間かけてだんだん傾いてきたそうです。そして、ただそれだけの記事です。写真を見ると、木が電線にひかかりそうな感じで、普通に考えれば、危険だからその前に木を切り倒すことになったとか、そうでなくても電線のことで対応に苦慮しているとか、その種の記事になりそうなところです。ところが、ここでは電線のデの字も出ないんですね。ただ、木にかけられている15個の巣が心配だ、と。

このふたつの話は全く別の場所で起きたことながら、どちらの記事にも同じ空気が流れているのを感じます。その空気はここ日本にももちろんあります。ただ、それはあくまで個々人のものであって社会全体で共有しているものではないのですね。ここで紹介した記事も、もしかしたら記者固有のものの見方が前面に表れただけかもしれません。けれど、もしこれが、彼らの属する社会が全体で共有する意識であるなら、そこには学ぶべきものがたくさんあるように思います。日本で人と野生動物のかかわり方を考える上でのヒントが数多く隠されているような気がするのです。

〔追記〕竜巻の被害はテレビニュースにもなっていました。 ⇒ KSTP TV(2011年5月24日)
犠牲になったオオアオサギは180羽(ほとんどはヒナ)にもなるそうです。ただ、200以上あった巣が全て無くなったということですから、行方不明のヒナがまだかなりいるのでしょう。映像に写っているのは運良く生き延びることのできたヒナ。まさに九死に一生を得たヒナたちです。

サギの救助

アオサギといえば警戒心の強さは折り紙付き。捕まえようにもそう簡単に捕まる鳥ではありません。この警戒心も生きる上ではなくてはならないものですが、場合によってはその警戒心の強さがかえって仇となります。たとえば、トラブルに見舞われたアオサギを人が善意で助けようとしたとき。

そんな事例は探せばいくらでも見つかります。たとえば…。

といった具合で、何とかしてあげたいけれどどうにもならないということが多いようです。

そんな場合、少しは役立つかもという方法がこちらのビデオで紹介されていました。場所はフロリダ州のとある公園のようです。なお、このビデオはNorthwest Florida Daily Newsで紹介されています。

ビデオのサギはくちばしに釣り糸が絡まったオオアオサギの幼鳥。映像が始まった途端、捕獲は一瞬で完了し、その後、はさみやナイフで釣り糸を切る作業がしばらく続きます。最後は放鳥。アオサギは無事に飛び立ってゆきました。

この映像、よく見ると生きた魚でアオサギをおびき寄せているんですね。まあ、そうでもしないとあんな都合の良い場所にはとても来てくれないでしょうけど。記事を読むと、捕獲の3週間前に、公園の常連であったデビーさんが糸の絡まったオオアオサギを見つけたのが始まりだったようです。デビーさんも当初は為す術がなかったようですが、やがて小さな魚を与えはじめます。サギのほうは魚を突っつくことでわずかな滋養を得ることはできていたようです。たぶん、くちばしの開閉が多少はできたのだと思います。ということで、あらかじめ餌付けされた状態ではあったようです。サギにしてみればせっぱ詰まった状況で、持ち前の警戒心もいくぶん犠牲にせざるを得なかったのでしょう。網が投げられた後のオオアオサギの反応もそれほど悪いようには見えないのですが、さすがにあれだけ近いとどうしようもありませんね。あえなく捕まってしまいました。

この捕獲に使われたネットはたぶん投網だと思います。このていどのものだとサギを傷つけることも少ないかもしれません。サギにある程度まで近づける状況であれば、この方法は機動性もありもっとも簡便で効果的な方法のように思います。おそらく、役所かそれなりの機関であればロケットネットとかネットガンとか他にも方法はあるのでしょう。けれども、そちらのほうがより安全で確実な方法かというと疑問です。

デビーさんも最初は保護してくれる公的な機関に連絡したそうです。ところが一向に音沙汰無し。仕方なく、知人のつてを辿っていくうちにこの投網をもったジミーさんを見つけたそうです。この場合、捕獲の技術をもったジミーさんに出会ったことは幸いでしたが、サギを救助できたのはあらかじめデビーさんが餌付けしていたからこそ。そういうことまで役所が面倒を見てくれるかと言えばこれまたはなはだ疑問です。

法律上は日本でもアオサギを勝手に捕獲することは禁じられています。けれども、ここで最初に挙げた国内のいくつかの事例を見ても、合法的に捕獲できる人たちが半ば匙を投げているのは明らかです。実際、1羽のアオサギを人数と時間をかけて何が何でも助けようとすることはないでしょう。けれども、これがたとえばタンチョウだったらどうでしょうか? なんだかんだ言っても、結局のところアオサギとタンチョウでは人から見た命の重さが違うのです。善意の行為が法律によって抑えられて、助かるかもしれないアオサギが無駄に命を落とすのはやりきれません。もし、デビーさんとジミーさんのように時間をかけて救助できる人がいるなら、それに伴う行為は法的にも認められて然るべきものだと思います。そうすれば、僅かかもしれないけれども助かる命は確実に増えると思うのです。

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