アオサギを議論するページ

嵐の後

ゴールデンウィークも終わってしまいましたね。この間、ヒナの誕生ラッシュだったコロニーも多かったのではないでしょうか。北海道は連休中、みぞれや雪の舞うあいにくの天気でしたから、生まれたばかりのヒナには最初からずいぶん苛酷な環境だったと思います。寒さや雨もさることながら、サギたちにとって一番気の毒だったのは猛烈な風。ヒナのところも卵のところも関係なくかなりの被害があったようです。

風の翌日に訪れたコロニーでは、巣が1mほどずり落ちているのを目撃しました。しかも落ちかけの巣にはまだ卵が…。親鳥は落ちかけの巣に座るわけにもいかず、巣のすぐ傍らでただ立ち尽くすしかないようでした。別のコロニーでは枝があちこちで折れており、巣が幹ごと風にもっていかれて跡形もなくなったところもありました。

ただ、このように被害の様子があからさまに分かるケースはむしろ少なく、一見変化がないように見えて実は被害を被っている場合は意外と多いのではないかと思います。というのは、それだけの風が吹く中、親鳥が巣に留まっていられるのかという疑問があるからです。もともと大揺れに揺れる木のてっぺんで暮らしている鳥ですから、相当な風でも平気なのは確かです。けれども、折れた枝が飛んできたり周りの木が幹ごと折れるような暴風の中、それでも巣に留まり続けるのかどうか。アオサギの場合、身の危険を顧みず、何が何でも卵やヒナを守るということはあり得ないですから。人間の価値観で考えると無慈悲なように思えますけど、彼らは自分の身に何かあれば、その時点で卵もヒナもアウト。まずは自分の命を確保することが最重要です。そう考えると、これは限界というところで親鳥が巣を離れたとしても不思議ではなく、そうなれば後に残された卵やヒナには風の猛威に抵抗する術はありません。そのような条件で観察したことがないので本当のところは分かりませんが、こんなふうに犠牲になる卵やヒナは少なくないのではないかと思います。

若いカップル

北海道の場合、4月というのは冬から春への過渡期。その過渡期もそろそろ終わろうとしています。札幌の隣の江別コロニーではまだ北向きの斜面に雪が残るものの、木々には緑の新芽が目に付きはじめました。

ひと月ちょっと前は営巣しているところがまだ数十巣だったコロニーも、現在は160を超えるほどの巣の数になりました。これで9割5分くらいは揃ったのではないかと思います。これからは増えても10巣ていどが限度でしょう。

そして江別コロニーでは、今まさにヒナ誕生の季節を迎えています。私が最初にヒナのサインを確認したのは4月27日で、わずかに聞こえるか細い声でそれと分かりました。まだまだ小さくかすかな声ですから、よほど聞き耳を立てていないと気付かないくらいです。おそらく、生まれて3日と経っていないでしょう。ヒナはまだ小さすぎて姿は見えませんが、ようく見ていると、親が巣の中に首を突っ込んで餌を吐き戻していたり、ヒナの食べ残しを再び飲み込んでいるのを目にすることができます。これから連休にかけて、そうした巣がどんどん増えてくるでしょうね。

この時期に面白いのは、若いカップルが新たに営巣を始めることです。右の写真にもひと組み、とんでもなく若いペアが写っています。左の2羽がそうで、上で翼を半ば開いているのが雄、その下で前屈みになっているのが雌です。雄はすっきりきれいな成鳥ですが、雌のほうは完全な1年目幼鳥です。白黒のはっきりした色は出ておらず、体全体がまだほとんど灰色です。

一般にアオサギの繁殖は2年目からと言われています。けれども、まれにこんなふうに1年目から繁殖を試みることがあるんですね。2年目でも滅多に見ることは無いので、1年目というのはかなり珍しいと思います。たぶん、アオサギで1年目幼鳥の繁殖例はまだ報告されていないはずです。興味のある方はきちんと観察すれば論文に発表できると思いますよ。ちなみに、江別コロニーでは昨年も1年目幼鳥の営巣が確認されています。残念ながら、その巣はかなり見にくい所にあったため、葉が茂ってからはどうなったか追跡できませんでした。今回はとても見やすいところで営巣しているので幼鳥の雌がいればすぐ分かると思います。ただ、問題なのは若いつがいは子育てを上手くやれるとは限らないこと。私がこれまで見てきた範囲で上手く営巣を続けた若いペアはひと組もありません。遅かれ早かれどこかで失敗してしまいます。一番長く営巣を続けたところでも、ヒナが孵化したと思われる頃までしかもちませんでした。生殖能力はあっても子育てするにはまだまだ未熟ということなのでしょうね。写真のペア、今のところは交尾もし、巣もそれなりのものが作られているようです。さて、この先、どこまでがんばれるでしょうか。

求愛の季節

空を見上げているのでしょうか。いいえ、ディスプレイです。

首をまっすぐ上に伸ばすこの姿勢は遠目にもすぐ分かるので、その意味を知らなくても見たことがあるという方も多いのでは。これは雄が雌に対して行う求愛ディスプレイのひとつです。見た目が非常に特徴的で、文献上はその首を伸ばす姿勢からストレッチと呼ばれています。くちばしをほぼ垂直に持ち上げ、その後、脚を折りながら頭を背中側に倒すように下ろすのが一連の動作。途中、ホッ、ホーという低くくぐもった声が発せられれば型としては完璧です。

2枚目の写真はストレッチ・スナップと呼ばれるもうひとつのディスプレイです。このサギは首を前方突き出していますが、下方に伸ばすこともあります。首と頭の毛を目一杯膨らませ、伸び切ったところでくちばしをカポンと鳴らすのが決まりです。この打ち鳴らす動作がスナップというわけですね。この時期、コロニーを訪れると、カポンカポンという乾いたスナップ音が遠くからでもよく聞こえます。春を実感できる軽やかな音です。

求愛ディスプレイは他にもありますが、もっとも分かりやすいのがこの2パターンです。いずれも、首を伸ばしたり羽毛を膨らませたりと、少しでも自分を大きく見せることに意義があるようですね。いっそのこと、翼も同時に拡げればもっと大きく見えそうですけど、さすがにそこまではしません。それでは威嚇になってしまいますしね。大袈裟になりすぎないぎりぎりのところで、いかに自分をアピールできるかというところが腕の見せ所なのでしょう。

さて、何だかんだ言ってもこういう動きのあるものは実際に動いているところを見るのが一番。そんなわけで、今回は動画を用意してみました。YouTubeに置いてあるので興味のある方はご覧になってください。1分ていどの短いものです。ここに書いた2タイプのディスプレイが連続して見られます。ただ、ストレッチのほうはいまいち気合いが入っていないようで、首の伸ばし方がやや甘く、ホーという声も出していません。この辺はかなり個体差もあるのでしょうね。それに、同じサギでもその時の気分でけっこう違ってくるような気がします。

YouTube『Grey Heron display アオサギのディスプレイ

雪の上で大丈夫?

北海道の冬も先の週末でとうとう力尽きてしまったようです。いよいよ春ですね。
こちらのアオサギはいま一番慌ただしい時を過ごしています。求愛ディスプレイに交尾に巣づくりにとやらなければならないことがたくさんあります。卵を抱いているところも少しずつ多くなってきたようですね。

写真はすでにつがいになり営巣を始めているペア。見たところ、この巣は冬の間に壊れることなく、無事、春まで残ったようです。ただ、巣がきれいに原形を留めているということは巣の上に雪がしっかり積もるということ。この巣の表面には今なおかなり白いものが見られます。それでも、このペアはやるべきことはちゃんとやっているようで、巣材もせっせせっせと運んできて巣づくりに余念がありません。さすがに雪の上から枝を差し込むのは無理なようでしたが、巣の縁を修繕したり雪の上に巣材を置いたりと、できる範囲で着実に仕事をこなしている様子でした。

ところで、この巣を見て驚いたのは、こんなに雪が残っているのにすでに卵があったこと。左のアオサギの足下にきれいな青緑色に見えるのがそうです。この卵、雪の上に置かれています。冷えきってしまわないのか心配ですけど、考えてみれば夜間はまだ零下になるわけですから、すけすけの巣より雪が敷かれているほうが却って暖かかもしれません。ときどき転卵していますし中身が凍ってしまうことはないのでしょう。そして親鳥も雪の上にぺったんと座り込んで抱卵しています。あれだけふかふかの羽毛があれば、雪に触れていても冷たくないのでしょうね。

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