他に住む場所がないから
- 2017年02月28日
- 生息状況
ここしばらくアオサギの営巣場所についていろいろ考えています。というのも北海道の営巣地を調べてみると、昔は無かったタイプの営巣地が最近になってぱらぱらと見られるようになってきたからです。以前にもご紹介しましたが、たとえば瀬棚や北檜山のコロニーではダム湖やため池の半ば浸水した木に巣がかけられています。また、江差町や福島町など、沖合の島で暮らすサギたちもいます。それから、少し前まではダム湖のブイで営巣していたアオサギもいました。じつはこれらのコロニーにはひとつの共通点があります。いずれのコロニーも巣の周りが水で囲まれているのです。これは地上性捕食者を近寄らせないための工夫だと思われます。このようなタイプのコロニーは全道で9ヶ所確認されていますが、いずれも大なり小なり不便を抱えています。通常の営巣環境と比べると巣立ちに成功するヒナ数もおそらく少ないでしょう。好き好んでそんな場所に巣をつくるとは考えられません。他に子育てできる場所がないから仕方なく不便な環境を選んでいるのです。
では、なぜ従来のような環境で普通に樹上営巣をしないのでしょうか? これはほぼ間違いなく地上性捕食者が原因です。北海道の場合、捕食者はアライグマであったりヒグマであったり。もしかすると両方かもしれません。実際、北海道ではアライグマもヒグマも木に登ってアオサギのヒナを襲っているところが目撃されています。彼らのいる場所と地続きで暮らす限りいつ襲撃されても不思議ではないのです。襲われるのが嫌なら何らかの障壁を築いて彼らが巣にアプローチできないようにするしかありません。その障壁のひとつが水というわけです。
そのことで最近ひとつ思いついたことがあります。かつて釧路湿原にあったコロニーのことです。ここは昔は道内屈指の大規模コロニーでしたが、2000年頃を最後に消滅していまいました。放棄された原因については野火や餌場環境の変化などいろいろ言われています。しかし、湿原の中にあるコロニーのため人目に触れることがほとんどく、確かなことは分かっていません。私はこのコロニーももしかすると地上性捕食者の犠牲になったのではないかと考えています。その推理でいくと諸悪の根源はこの湿原の真ん中には堤防道路にあります。こんな愚かなものをつくったために湿原が北と南に分断され、コロニーのあった南半分が乾燥化してしまったのです。乾燥化すればそれまで近寄れなかった湿原の内部にほ乳類が侵入できるようになります。そうなればアオサギの聖域にヒグマやアライグマが到達するのはもはや時間の問題。不幸なことに釧路湿原のサギたちは樹高の低いハンノキ林(多くは10m以下)に営巣しており、もし狙われたとしたらひとたまりもなかったでしょう。 もちろんこれはただの推測というか思いつきに過ぎませんが、可能性としてはまったく無視できるものでもないような気がします。
ところで、さっき捕食者を近寄らせないための障壁について書きました。そのひとつが水であると。じつはもうひとつあります。アライグマやヒグマが来ない場所、それは街中です。最近、街中の小さな樹林にコロニーができることが多くなってきています。住宅街の中にある孤立林はアオサギにとっては格好の避難所なのです。
こうした避難所は街の中や水で囲まれた場所だけではないかもしれません。普段、何気なく見るコロニーも、なぜこんな場所にあるのかと考えると疑問に思う場所が少なくありません。そして、それを地上性捕食者からの逃避という視点で見直してみると納得できるケースが多々あるのです。すべてをアライグマやヒグマのせいにはできないにしても、従来とは違う変な場所につくられたコロニーが地上性捕食者からの逃避を目的としている場合は想像以上に多いのではないかと思います。
道の統計によると、アライグマもヒグマもここ数十年増加傾向にあるようです(アライグマの資料、ヒグマの資料)。加えて、ここ数十年のスパンで見るとアオサギも増えています。両者とも増えたことでお互いに出会う機会が多くなり、結果としてアオサギが襲われるケースも増えたということなのでしょう。
だとすれば、おかしなところで子育てするアオサギは今後も増えるかもしれません。けれども、彼らが避難所として使えるような都合の良い場所が果たしてどれだけあるでしょうか? 街中の孤立林で人が快く受け入れてくれるところはそう簡単には見つけられません。水で囲まれた営巣環境を見つけるのはさらに難しいことでしょう。
昔は北海道は湿地だらけで、湿原内のハンノキ林など地上性捕食者をシャットアウトできる優れた営巣環境があちこちにありました。ところがそうした場所は人がどんどん潰していき、びじゃびじゃな環境は今ではもう猫の額ほどになってしまいました。アオサギは樹林があればどこでも営巣できると考えるのは大間違いです。彼らにとって安全な樹林はもう僅かしか残っていないのかもしれません。アオサギにとって湿地がどれほど重要な環境だったか、今あらためて考えさせられています。