アオサギを議論するページ

個体数

個体数

2013/08/21(Wed) 18:06 まつ@管理人 アオサギの推定個体数

先日、発売されたBIRDERの記事に、アオサギの個体数を全国で約3万羽と見積もった一文がありました。こうして具体的に数値を示されると、それだけでインパクトがあるというかいろいろ考えてしまうものですね。じつは、国内のアオサギの生息状況については全国的な調査どころか地域レベルの調査さえごく僅かしか行われていないのが実情で、BIRDERに示された推定値も妥当なものかどうかは誰にも分かりません。ただ、大雑把な推定値であるにせよ、この数値は実際の個体数からそれほど大きくはかけ離れてないように私には思えます。少なくとも数千ないし数十万という単位ではなく、数万のオーダーであることはまず間違いないのではないかと。そこで今回はこのアオサギの個体数について私も独自に推定してみたいと思います。

estimated population地域別に、まずは北のほうから。北海道では2000年代前半に北海道アオサギ研究会が全道をくまなく調査しており、道内の生息状況は比較的よく分かっています。その報告書によると、当時の営巣数は約4,500巣と見積もられています。アオサギは一夫一妻ですからこれを単純に倍にして約9,000羽の成鳥がいることになります。その後は同水準か多少増えたかなというていどなので、現在はちょうど10,000羽ぐらいでしょうか。繁殖に参加しない幼鳥を入れると実際の個体数はもう少し多くなりますが、今回はとりあえず繁殖している成鳥だけで考えることにします。

北海道は面積が広い上に彼らの生息に適した環境も多いため、単独の都道府県としてはアオサギの個体数はもっとも多いと思われます。一方、密度から言えばもっと高密度にアオサギが暮らしている県があります。たとえば福井県。じつは日本海側は昔からアオサギが多いのです。福井県では日本野鳥の会福井県のサギ類調査グループが、毎年、県内の全コロニーをモニタリングしています。その報告によると、2011年は県全体で628巣が確認されたそうです。個体数にして1,256羽。隣の石川や富山も同じような生息状況だとみなすと、北陸全体で3,500羽といったところでしょうか。

同じように、長野県では県の環境保全研究所が、2007年に全県を網羅した調査を行っています。この調査では718巣が確認されています。これも単純に倍にして1,436羽。隣の新潟県も日本海側ということで個体数は多いと思われますから、甲信越地方全体では3,500羽ぐらいかなと思います。

一方、太平洋側の地域ですが、こちらはあまりいないのかなと思いきや最近はそうでもないようですね。たとえば茨城県。ここは筑波大学などを中心に昔からサギ類の調査が熱心に行われてきた地域です。彼らが2000年代初めに県中南部地域で行った生息状況調査のごく簡単な結果がこちらで見られます。これによると、茨城県の中南部地域では、サギ類のコロニーの中でアオサギが占める割合はたった4%に過ぎないことが分かります。個体数にするとおよそ770羽ほどになります。他の地域は茨城の例を参考に、地形や餌場のことなどを考慮しつつ半ば直感で数値を当てはめていくしかありません。ということで、関東全域では3,000羽ほどになるのではと推測します。

ところで、上記資料にあるように、筑波の人たちは滋賀県にも出かけて同様の調査を行っています。こちらはアオサギの割合が4割と格段に高くなっています。個体数も滋賀県全体でおよそ2,550羽。先ほど福井県のアオサギ密度が高いと書きましたが、計算してみると滋賀県はその2倍以上の密度になるようです。広い水辺のある環境は水鳥にとってはやはり魅力なのですね。

近畿では他に京都でもコロニー単位で個体数が記録されています。これは京都府の佐々木さんが調べられたもので、こちら(PDF)で結果を見ることができます。1997年の調査とややデータが古いのですが、当時の個体数はおよそ870羽ほどになるようです。

大阪のほうでも記録があります。これは大阪市立自然史博物館の和田岳さんによって1990年代後半に調査されたもので、その結果は大阪府下のサギの集団繁殖地のページにまとめられています。それによると、当時の営巣数は200数十巣ほどになります。その後の生息状況については分かりませんが、当時から変わっていないと考えると個体数にして500羽ていど。近畿地方全体では、全てひっくるめておよそ5,000羽と予想しました。

広域での調査結果をいくつか挙げてきましたが、こうした調査が行われることは稀で、私も上で紹介した調査以外はほとんど知りません。もし地域のアオサギ個体数に関するまとまった資料をご存知の方がおられましたら御教示いただければ幸いです。そのようなわけで、以下の地域については具体的なデータが無く、ますます心許ない推測しかできません。まったくいい加減で申し訳ないのですが、そこのところは目を瞑ってもらって、今回は無理矢理にでも数値を出してみたいと思います。

まずは東北地方。ここは太平洋側にはそれほど多くないと思われますが、面積が面積ですから全体で6,000羽ていどになるのではないでしょうか。東海は関東と同じような状況だとみなして3,000羽。西日本の状況についてはさらに根拠がありませんが、他の地域の個体数と同程度ではあっても多いということはなさそうです。中国4,500羽、四国1,500羽、九州3,000羽ぐらいかと。沖縄は繁殖していないはずですから生息しているとしても僅かでしょう。

そのようなことで、ここで見積もった数値を全部足すと43,000羽になりました。これに繁殖に参加していない幼鳥を加えて50,000羽ぐらいにはなるかなと。前後2万ぐらいの誤差はあるかもしれませんが、他に全国のアオサギ個体数の推定値が無いので、大雑把な数値でも何も無いよりはましでしょう。

さて、国内のアオサギの5万という数、多いと思われたでしょうか少ないと思われたでしょうか? 何を基準に置くかで感じ方はずいぶん変わってくると思いますが、たとえばマガンの国内個体数は冬だけとはいえ15万を超えています。アオサギが5万としてその3倍もいるわけです。そして、片方は天然記念物であり、もう片方は有害鳥獣なのです。これはアオサギにしてみれば理不尽なことこの上ないですね。もちろん、両種の生態も人との関わり方もまるで異なるので個体数だけで比較するのは無謀ですが、現実を客観視する上でこうした比較はまったく意味の無いことではないような気がします。

あるいは人と比べればどうでしょうか? 我々人間の多さに比べれば5万など吹けば飛ぶような少なさです。国内に限って言えば、ヒト2,500人に対してアオサギ1羽といったところです。アオサギが多いか少ないかは別にしても人が多すぎるのは間違いないでしょう。人とアオサギとの間には何かとトラブルがありますが、そもそも人がこの地上に無闇に増えすぎたことがあらゆる問題の根源。アオサギの行為をあれこれ言う前に、まずはそのことを自分たちの原罪として常に認識しておかなければと思います。

2002/09/27(Fri) 23:00      まつ@管理人      ブラックバス

1960年頃、北海道のアオサギ繁殖地はわずか5、6ヶ所しかありませんでした。昔のことなので見落としがあるかもしれませんが、ともかく今のようなコロニー乱立状況とは全く異なっていたようです。現在、北海道のコロニー数は約65、およそ3500つがいが生息していると推測されます。では、1960年当時の生息数はどの程度だったのでしょうか。昔の資料を見る限り北海道で最も大きなコロニーがあったと思われるのは苫小牧の明野コロニーです。そこにはその昔1000羽をはるかに超える飛来数があったといいます(ただし1960年前半には既に100巣を切るほどになっています)。この数値を鵜呑みにし、仮に明野に500つがいの非常に大きなコロニーがあったとします。けれども他のコロニーは多いところでも当時せいぜい200つがいです。とすればこの頃の北海道のアオサギ生息数は、よほど多く見積もっても1500つがいがいいところでしょう。それでも現在のつがい数の半分にも達しません。そう考えると、コロニー数の増加とともに生息数自体も増えているというのはほぼ間違いないところだと思われます。

さて、問題はなぜアオサギが増えてきたのかという点です。アオサギの増加については北海道だけでなく全国的な傾向なのですが、これについて本州で鳥を研究されている方々の間で興味深い話が交わされています。アオサギの増加にブラックバスが関係しているのではないかというのです。こと北海道に関してはブラックバスの生息域はまだ限られておりアオサギへの影響はほとんどないように思われるのですが、実はそんなことはありません。なぜなら、北海道のアオサギが冬を越す場所はブラックバスが大量に生息する本州以南だからです。通常、アオサギの個体数を制限する主要因は冬期間の餌不足であり、秋に南へ渡ったアオサギが翌春ふたたび戻ってこれる可能性はそれほど高くありません。しかし、もし従来の餌にブラックバスが新たなメニューとして加わるなら、飢えの危険性がそれだけ低くなり、結果として以前より多くのサギが冬を生き延びるようになるかもしれません。そうなると北海道の繁殖地へ戻ってくるアオサギの割合も多くなるわけです。専門家によれば、ブラックバスは在来魚のように深いところでは越冬しないということで、これはカワウなどでは実際に冬場の餌条件を向上させる一因になっているとの指摘があります。カワウ同様、魚食性のアオサギに同じことが起こったとしても不思議ではありません。

今のところ全て推測の話ですし、これだけがアオサギの増加の原因というわけでもありません。けれども、もしこれが本当なら人間の行為が環境を変化させたことについて真剣に議論、検討される必要があります。北海道ではブラックバス同様、移入種であるアライグマによって、アオサギの営巣地が消滅し、繁殖形態にも少なからぬ影響が出ています。さらにブラックバスについて言えば、新たな場所で捕獲されたというニュースが最近相次いでいます。こうなると越冬期の生存率もさることながら繁殖期の生息状況にも影響が及ぶ可能性が出てきます。5年後、10年後、果たしてアオサギはさらに増え続けているのでしょうか? あるいは予想もしない展開が待っているのでしょうか?

アオサギは体が大きいことに加え集団で生活しているためよく目立つ存在です。そのため彼らの身に何かが起こった時にはその動向を比較的早く察知することができます。けれども、忘れてならないのはアオサギに何か異変が起こった時にはもっと人目についかない他の多くの種にも同じように異変が起きているはずだということです。そういう意味ではアオサギには環境指標種としての役割が課せられているのかもしれません。ともあれ、アオサギの身辺に起こる変化を見過ごさないことが大切でしょう。

2002/08/25(Sun) 20:13      まつ@管理人      北海道の世帯数

このサイトに北海道のコロニーの一覧表を載せています。新しい情報が入るとたまに手を加えているのですが、少なくとも現存コロニーについてはほぼ網羅できたのでないかと思ってます。そんなわけで、試しに北海道で繁殖するアオサギの総個体数を概算してみました。もっとも、営巣数は部分的にしか調べていないので、未調査のコロニーについてはあくまで概数です。従って目安程度のものと考えて下さい。で、その数ですが、北海道全体で約3,500つがいです。個体数にすると単純にこの倍の7,000羽、また、それぞれのペアが3羽ずつヒナを巣立たせるとして、繁殖が終わった夏の段階では17,500羽となります。実際は繁殖に参加しない個体もいますし、繁殖しても途中で失敗する場合も多いので、数値はかなり前後すると思います。

さて、皆さんはこの数を多いと思われますか、少ないと感じますか?
この状況を人間社会に置き換えると、北海道内に小さな村が65ヶ所(これは道内に現存するコロニーの数です)点在していて、それぞれの村の規模が平均で約50世帯という状況です。実際は数世帯しかない村もあれば300世帯というかなり大規模な村もあります。が、いずれにせよ北海道全体でもたかだか3,500世帯なのです。
ところで、北海道のヒトの世帯数は今年6月末現在で2,495,902に達します。アオサギと較べれば桁違いどころか3桁も違います。あまり意味のない比較かもしれませんが、人間の圧倒的多さに較べれば、アオサギなど吹けば飛んでなくなるような数なんですね。

「アオサギって最近どこにでもいるよ」「少し増えすぎだね」とかいう言葉を耳にするたび、「何か忘れてやしませんか」と思ってしまうのです。


2002/08/27(Tue) 19:46      まつ@管理人      フランスでは

個体数の話が出たついでに、もう少し他の地域についても調べてみました。とはいえ、残念ながら国内での調査は特定のコロニーや地域に限られており、例えば本州、四国、あるいは九州にどれだけのサギが生息しているのかとなるとおおよその数さえ分からないのが実状です。これは日本だけでなくアジア、アフリカの多くの国でも同じです。しかし、さすがにヨーロッパは違っていました。ほとんどの国が国内全域での調査を行っているのです。したがって、繁殖数がヨーロッパ全体でどのくらいかということまで分かります。2000年に出版されたHeron Conservation (J. A. Kushlan and H. Hafner 著)という本によると、その数は15-18万つがいと推測されています。密度でいうと大雑把に計算して100平方キロあたり2.9-3.5つがいになります。ちなみに北海道での密度は4.5つがいです。少し乱暴な比較ですが、両地域の地理や気候など全部無視してこれだけ近い値がでるというのはちょっと興味深いですね。

さて、上に紹介した本には各国別のアオサギの変遷についての記載もあります。この中で、最も詳しく記述されているフランスの事例を紹介します。以下、要約です。

「古来、フランス皇族の狩猟鳥だったアオサギは18世紀まで広く保護されてきました。ところが、19世紀になると害鳥とみなされ大がかりな駆除が始まります。このため、20世紀が始まる頃にはアオサギはフランス全土からほぼ絶滅してしまいました。唯一残ったコロニーは個人所有の敷地内にただ1ヶ所という有り様でした。その後、第一次世界大戦が勃発、アオサギの狩猟が下火になったために、かろうじて2つのコロニーがつくられました。第二次世界大戦の時も同様の状況で、アオサギは徐々に分布域を拡大し個体数も増えてきました。1975年以降は法的に保護されたこともあり、アオサギはその後も順調に増え続け、1994年にはコロニー数658、つがい数26,687に達しています。」

アオサギが人間の都合でどれだけ翻弄されてきたか、これはほんの一例にすぎませんが、世界中いたるところで同じ様な歴史があるはずです。アオサギとヒトとの適切な関係を模索する上で、まず知るべきは両者の辿ってきた歴史なのかもしれません。

ページの先頭に戻る