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アオサギとフラミンゴ

アオサギとフラミンゴ

2013/01/12(Sat) 11:13      まつ@管理人      脱走フラミンゴ、いのちの行方

フラミンゴが旭山動物園を脱走したのが去年の7月18日。あと1週間ほどで、その脱走劇も半年になろうとしています。あのフラミンゴはこの寒い冬を、いまどこで、何を思って過ごしているのでしょうか。

本来、このサイトはアオサギのことしか書かないのですが、フラミンゴがコムケ湖での一時期をアオサギとともに過ごしたという誼もあり、今回は特別にフラミンゴのためにページを割きたいと思います。

先日、テレビ東京で、旭山動物園のドキュメンタリー番組が放映されました。その中で坂東園長は、脱走中のフラミンゴは、本来、日本にいない生き物なのだから、捕獲できなければ駆除(射殺)も止むなしとの発言をされました。これは、そうですかと打ち捨てておけるような類の発言ではありません。影響はフラミンゴにとどまらず、日本にいない生き物全体に及びますし、生き物のいのちをどう考えるのかという根本的な問題に触れることでもあるからです。そもそも、フラミンゴを駆除する正当性があるのかという疑念が私にはありました。旭山動物園の園長だからといって、常にその発言が正しいわけではありません。そこで私は、昨日、坂東園長宛に問い合わせのメールを送りました。内容は、駆除の根拠、社会的合意の必要性、情報の開示に関するものです。これは要約すると論旨が理解されなくなりそうなので、少々長くなりますが、以下にその全文(前文、末文を除く)を掲載します。

お尋ねしたいのは、フラミンゴを捕獲できなければ駆除も止むなしとの判断に至った根拠です。今月6日にテレビ東京で放映された番組の中で、坂東さんご本人が同趣旨のことを語っておられました。その後、私は、関係する法律、条例にいたるまでことごとく目を通してみましたが、今回のケースで駆除が許可される蓋然性のある規定はひとつも無いと解釈しました。

坂東さんが駆除の根拠にされたのは、平成16年に環境省が告示した『展示動物の飼養及び保管に関する基準』ではないかと考えます。これは告示ですから、本来、書かれた内容に法規的性質はありません。ただし、この場合は、動物愛護法の規定を補充する内容であることから、実質的に法規の性質を持つものと考えられます。この基準中、「終生飼養等」の項に、展示動物が「人又は他の動物に著しい被害を及ぼすおそれのある場合」は、管理者は殺処分が可能であると解釈できる一文があります。もし今回のフラミンゴがこのケースに該当するのなら、最終的には駆除も止むなしとした坂東さんの判断は妥当だと私も納得できます。しかし、影響の程度が「著しい」ものでない場合、この基準は駆除を正当化するものではありません。

坂東さんが駆除が止むなしとお考えになったのは、この影響の程度が「著しい」と判断したからだと推察します。私は「著しい」とは考えません。その論拠を以下に説明します。

まず、人への影響についてです。人に危害を加える可能性、農林水産業へ経済的な被害を及ぼす可能性、いずれも全く無いとは思いませんが、逸走しているフラミンゴが1個体であることから、その影響は極めて軽微であると考えます。

つづいて自然生態系への影響です。これまでのご発言から判断して、坂東さんはこの点をもっとも重視されていると感じました。在来種でない生き物が自然生態系に悪影響を及ぼす可能性があることについては私も異論ありません。しかし、今回の場合、フラミンゴは1個体であり、他の動物への影響は限定されています。また、国内の自然環境には、他にヨーロッパフラミンゴが生息していないことから、野外で繁殖し子孫を増やす可能性は現時点でゼロです。また、国内には近縁な種も存在しないことから、異種間での交雑が起こる可能性もありません。さらに、渡りの可能性が考えられる東南アジアやロシア極東についても、フラミンゴ科の鳥類は生息しておらず、国内の場合と事情は変わりません。

一方、これらは現時点での状況であり、今後、逸走中のフラミンゴが生存しつづけた場合、別の新たな逸走フラミンゴとつがいになるなど、将来、懸念される事態がまったく起きないとの保証はありません。しかし、そうしたことが起こる確率は非常に小さいと私は考えます。

以上のことを総合的に考慮した結果、私は、今回の逸走フラミンゴによって「著しい」被害を予想するのは困難であるとの結論に至りました。つまり、私としては、坂東さんの今回の発言内容に、駆除を正当化するのに十分な根拠は無いと考えます。

私は、動物のいのちの尊厳に対する坂東さんの認識を疑うものではありません。ただ、動物に対して個人が抱く意識や感情はさまざまであり、この種の問題で重大な決定を下す際には、その判断に対して人々から広くコンセンサスが得られていなければならないと考えます。これが動物のいのちに対する考え方に大きな影響力をもつ旭山動物園の園長としての発言であればなおさらです。

平成18年に環境省が告示した『動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針』に、「合意形成」について書かれた箇所があります。そこでは、「国民が動物に対して抱く意識及び感情は、千差万別」であり、外来生物の駆除等々、法に基づいて行われる行為においてさえ賛否両論があることを認めています。続けて、「個々人における動物の愛護及び管理の考え方は、いつの時代にあっても多様であり続けるものであり、また、多様であって然るべきものであろう。しかし、万人に共通して適用されるべき社会的規範としての動物の愛護及び管理の考え方は、国民全体の総意に基づき形成されるべき普遍性及び客観性の高いものでなければならない」としています。これは私もまったく同意見なのでそっくり引用しました。この指針を踏まえた上で今回の件を振り返ってみますと、「捕獲できなければ駆除も止むなし」との判断は、現段階で「国民全体の総意に基づき形成されるべき普遍性及び客観性の高い」考え方とは到底言えません。今回の問題に関しては、いまだ国民の同意が得られている段階にはないと考えます。

今回、坂東さんの見解はメディアを通して全国に発信され、すでに衆目を集める状況になっています。断片的なことしか伝えられないメディアの弊害とはいえ、視聴者には番組が放送したとおりの形でしか伝わりません。もともと日本にいない生き物は殺さなければならないという発言は、それが旭山動物園の園長の発言である以上、当然、法的にも正当性があるものと多くの人は捉えるはずです。私がもっとも危惧するのはまさにこの点です。そして、今回の坂東さんの見解が、逸走中のフラミンゴだけでなく、「もともと日本にいない生き物」全般に対しても適用されかねないことを懸念しています。

繰り返しになりますが、今回の件については、私は法的な正当性は無いと考えています。また、もし仮に正当性が認められるとしても、前述した「著しい」のていどの解釈をはじめ、議論すべき事項は多々残されています。こうした社会的コンセンサスが得られていない問題については、公での発言には慎重であるべきで、もしどうしても駆除が必要とのお考えであれば、法律上の正当性を含め広く議論し、予めコンセンサスを得ておく必要があると考えます。

そこで、最後に私からお願いがあります。今回の件に関する貴園の今後の行動計画について、その計画が必要であると判断された論拠とともに、何らかの形で公に示していただけないでしょうか。差し出がましい発言を許していただけるなら、今回の一連の出来事に対する貴園への非難の一部は、貴園が捕獲の理由を世間が納得できる形で示してこなかったことにあると私は思います。ことここに至っては、その生き物が日本にいないからという理由だけでは、もはや世論を納得させることはできません。捕獲を継続し、最終的には駆除しなければならないとの判断について、具体的で、誰もが正統と認める論拠が是非とも必要です。

なお、今回の出来事については、坂東園長ご自身がその経緯を『ゲンちゃん日記』で説明されています。ただし、昨年9月に書かれたものなので、それ以降のことは分かりません。また、今回問題にした番組はこちらのページに動画が貼られています。フラミンゴの話は23:27辺りから始まります。問題の発言の箇所では、坂東園長はそれを当然のこととして語っているのではなく、かなり逡巡されながら苦悩の果てに話された、そんな感じを受けます。番組だけを見ると、番組のつくりのせいもあり、どうしても坂東園長に同情する声が多くなるのは分かります。しかし、今回の問題は、動物のいのちをどう考えるのかという極めて重要な問いが含まれており、感情を差し挟む余地のないところできちんと議論されなければなりません。今回ここに載せた坂東園長への手紙が、建設的な議論をするための判断材料のひとつとして役立てれば幸いです。なお、この手紙に対する動物園側の対応については、何らかの動きがあり次第、ここでもお伝えしていきたいと思います。

動物愛護法関連の法令や基準には、「命あるものである動物」という文言が繰り返し繰り返し出てきます。単に「動物」とせず、あえて「命あるもの」と形容するのは、それが動物愛護法の核となる精神に他ならないからです。手紙の中で引用した『展示動物の飼養及び保管に関する基準』には、展示動物を止むを得ず処分しなければならないときでも、「動物が命あるものであることにかんがみ、できるだけ生存の機会を与えるように努めること」との一文があります。今後、今回の問題が議論されるにあたって、「命あるものである動物」の語に込められた思いが、普遍的価値をもつもとして再確認されることを切に願わずにはいられません。

【追記】これを書いて数時間後、坂東園長から回答の電話をいただきました。駆除は法的にもできないし、するつもりも無いとのお話でした。番組では、坂東園長の意図するところとは別の形で発言の内容が伝わってしまったとのことです。如何ともしがたいメディアの弊害ですね。坂東園長には本当に丁寧に説明していただき感謝しています。とりあえず、これでひと安心です。昨日は浦河のほうで動物写真家の方がフラミンゴを目撃したとの情報もあります。今回の出来事がハッピーエンドの結末を迎えられるよう祈っています。

2012/09/03(Mon) 08:51      エゾミユビゲラ      脱走フラミンゴ

7月18日旭山動物園から脱走したフラミンゴは25日小樽市で発見されてから28日には紋別のコムケ湖に移動して、以来ずっかりコムケ湖が気に入っているようで、アオサギと一緒におります。

8月14日と15日観察に行ってきました。2回の囮を使った捕獲作戦に失敗したのみならず、囮の2羽を犠牲にしてしまったことは反省点があるのではないでしょうか。

種類が違いながら、何故行動を共にしているかと言う事ですが、一日に何回かアオサギと共に一斉に飛び立ちます。その時決まってオジロワシの姿が認められます。群れでいる事により外敵の発見が早くできるというメリットがあるからでしょう。猛禽類に対してはかなり敏感ですが、元々アオサギはキツネに対してはあまり問題にしていません。数メーター以内に近づけば一寸飛べば済む事ですから。

囮を檻に閉じ込めていたことが悲劇を招いたということだと思います。脱走フラミンゴはもはやすっかり野生を取り戻しており、怪しげな檻には近づきません。むしろデコイにした方が良いのでは・・・。

北海道のアオサギはまだまだ警戒心が強く、なかなか100m以内には近づけません。私も数mに近づいて撮影するには何日も観察してそれなりの準備をしますが、動物園関係者は飼育下の動物に対しての経験が長く、野生に対する経験が不足している様に思われてなりません。


2012/09/03(Mon) 18:19      まつ@管理人      Re: 脱走フラミンゴ

エゾミユビゲラさんの意見に全く同意です。旭山動物園の方々には失礼ですが、彼らのやっていることを見ると辛辣な言葉しか思い浮かびません。動物の飼育や管理についてはエキスパートであっても、野生鳥獣のことについてはまったくのド素人なのではないかと疑ってしまいます。捕獲するにしても、あんな子供だましの罠では捕まるものも捕まりません。やるならやるで野生フラミンゴの専門家や捕獲の専門家に相談してそれなりの時間と手間をかけるべきですが、これまでのところ自分たちの安易な思いつきだけでやっているように思えてなりません。

そもそも、そこまでして捕獲する必要があるのかというのが疑問です。逃げた動物を捕獲するのは動物園の責務とはいえ、有効な捕獲法が無く、他のフラミンゴの命まで損なうという状況で、これ以上無駄に追いかけ回すのは、動物園のメンツを保ちたいだけではないかとさえ感じます。あるいは生態系への影響を懸念しているのでしょうか。もし群れで大脱走したのであれば、生態系への影響も含めその後なんらかの不都合が生じる可能性もあると思います。しかし、たった1羽でどんな影響があるというのでしょう。その1羽を捕獲するために静かなコムケ湖で大騒ぎしているほうが、一緒にいるアオサギたちにとっても生態系にとってもよほど迷惑です。

もう10年以上前の話になりますが、北海道には山口県の公園を逃げ出したペリカンのウェンディ君が姿を見せていました。それから数年、自由気ままにあっちこっち好きなように飛び回っていたのは周知のとおりです。で、逃げ出された公園のほうはどうしたかというと、もう捕獲できる状態ではないからと見守るしかなかったのですね。それでいいのだと思います。ウェンディ君はアオサギのコロニーに来て散々アオサギに迷惑をかけていましたし、おそらく行く先々で大量の魚を食べていたはずです。生態系にまったく影響が無かったと言えば嘘になるでしょう。けれども、お騒がせ者で人気者だったウェンディ君もいつしか行方知れずになり、かつてアオサギのコロニーに場違いな白い物体として鎮座していた姿も夢のような記憶として残るのみです。そんなペリカンに比べるとフラミンゴ1羽の影響など取るに足らないと思うのです。

旭山動物園はいい加減、自らの愚かさに気付いて欲しいと思います。

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