アオサギを議論するページ

コロニー放棄の経緯

しばらく前に、当サイトの「アオサギ掲示板」で、アオサギコロニーが消滅したとの情報を教えていただきました。それ以来、そのことについてあれこれ調べています。まだ何が原因で放棄に至ったのか確かなことは分かっていませんが、アオサギの保護保全に関わるひとつの参考事例として、これまでの経緯だけでもとりあえずまとめておこうと思います。

消滅したのは北海道の幌加内町にあったコロニーです。雨竜川の河畔林に十数つがいが巣をかけており、今年で8年目の営巣でした。周りは田圃や畑の広がるところで、人家もほとんどありません。コロニーの存在を知る人はごく僅かだったはずです。それが5月末頃に完全に放棄されてしまいました。幌加内といえば国内でももっとも寒い地域のひとつで、アオサギはかなり遅い時期になってから繁殖を始めます。とはいえ、さすがに5月末ともなればほとんどの巣には小さなヒナがいたはずです。その時期にヒナを置き去りにして逃げたわけですから、よほどのことがあったのだと思います。

さっそく現地の状況を調べに行ったところ、コロニーのある樹林で伐採工事が行われていることが分かりました。なんでも河川の保護工事を行うために樹林の伐採が必要だったということです。伐採箇所はコロニーそのものにはまだ及んでいませんでしたが、コロニーからほんの4、50mの距離まで迫っていました。その近さで木をバリバリと倒されたら、安心して営巣できるわけがありません。ただ、その後、この工事を施行している河川事務所に尋ねたところ、この伐採作業が行われたのは6月4日、つまりコロニーが放棄された後ということで、伐採作業自体が営巣放棄に関係したわけではないようでした。

backgroundこのコロニーでは5月上旬にアオサギが営巣しているのが目撃されています。コロニー周辺での工事が始まったのはその後のことです。そして、5月28日にはアオサギはコロニーから少し(たぶん100mていど)離れた別の林に移っていたようです。おそらく緊急避難的に場所を移したのでしょう。さらに6月1日頃には、そこから5キロほど離れた林で新たに営巣を試みています。

一方、工事のほうはというと、伐採を除けば営巣放棄の原因となりそうな作業はほとんど見当たりません。考えられるとすれば、コロニーの川向かいにある堤防の測量ですが、その堤防は川を挟んで100m以上も離れたところにあります。アオサギは警戒はするかもしれませんが、放棄となるとこれはまた別次元の話。普通に測量していただけなら、その作業が影響したとはちょっと想像できません。ただ、この測量は5月22日と28日に行われており、28日にアオサギが緊急避難したと考えると時期的にはぴったりと符合します。

いずれにしても、工事との関係は疑われこそすれ断定はできないというのが今の状況です。もし、工事の影響でないとすれば、あと考えられるのは捕食者でしょうか。アオサギの営巣に深刻な被害を与えそうな相手としては、たとえば、オジロワシ、クマタカ、アライグマ、ヒグマあたりが挙がりますが、現地ではこれらの捕食者は見かけないということです。たとえいたとしても、いったんヒナが生まれてしまえばアオサギもそう簡単に放棄することはないでしょう。

ところで、今回の河川保護工事はコロニーの存在が分かった時点でストップしました。これは河川事務所が独自に受注業者に指示したもので、その判断は妥当なものだと思います。けれども、伐採中止の指示が現場に届いたのは伐採を行った当日だということで、これは問題です。前述したように、伐採を行う以前にコロニーは放棄されていましたから、今回の放棄の原因は伐採そのものというわけではないようです。しかし、もし伐採を行うときまでアオサギが営巣を続けていたら、伐採が彼らをコロニーから追い出したことは間違いないでしょう。結果的に放棄と工事との関係が薄くなっただけで、今回の工事に問題が無いというわけではありません。

問題は、アオサギのコロニーを含め鳥獣の生息状況を把握するための事前調査が十分でなかったことにあります。今回の工事は、法的に環境影響評価が必要な規模ではないようですが、だからといって何の調査もせずに何をやっても構わないというものではありません。今回の工事でも河川巡視という形で工事箇所の状況は何度か確認しています。アオサギのコロニーに気付いたのもその巡視においてでした。しかし、この巡視は対岸の堤防を車で移動して見回るていどのもので、鳥獣の生息状況を把握するためには最低限のものですらありません。せいぜいアオサギのコロニーに気付くていどのものでしょう。それに、寒いところとはいえ、5月に入ってからの調査では、葉も繁りますし樹林内部の様子など外からはまったく伺い知れません。樹林内でどんなに多くの鳥獣が暮らしていても、その命はほとんど無視されてしまうわけです。十分な事前調査を行うことは当然ですが、工事関係者には、鳥類の繁殖が集中する時期の樹林内作業は極力避けるようスケジュールを調整してほしいものだと思います。今回、このことは河川事務所のほうにも要望しておきました。

ところで、今回、コロニー放棄の情報を「アオサギ掲示板」に投稿してくださったのは、幌加内にお住まいのエゾミユビゲラさんです。エゾミユビゲラさんによると、6月初めにご自宅に隣接する林にアオサギが巣をつくりはじめたのを目撃し、放棄されたほうのコロニーに何かあったのではないかと思ったそうです。案の定、そうだったわけですが、じつは、このとき新たにつくりはじめた巣で、今も10つがい以上が営巣を続けているそうです。人一倍アオサギに思い入れのあるエゾミユビゲラさんですから、アオサギがコロニーを構える場所としてこんな安全な場所はまたとないでしょう。巣をつくりはじめてもうひと月、そろそろヒナが生まれる頃でしょうか。今度こそ安心して子育てを続けてほしいものです。

ヒナの大きさ比べ

5月も今日で最後。ここ北海道では、3月半ばからはじまったアオサギの営巣活動は今ようやく折り返し点というところです。札幌近郊のコロニーに限ると、ヒナが生まれたのが早いところで4月下旬でしたから、それからすでに5週間になります。5週間も経つとヒナはもうかなり大きく、姿もずいぶんアオサギらしくなっています。このくらい成長すると、アオサギをあまり見たことのない人なら、親とヒナを区別するのにちょっと戸惑うかもしれません。もちろんヒナと親鳥とは色合いが全く異なるので知っていれば間違うことはありませんが、体型的には親鳥にかなり近づいています。けれども、姿はそれらしくなったとはいえ、彼らが巣立ちするまでにはまだしばらくかかります。このあと2週間ほどでなんとか飛べるようにはなりますが、親鳥に頼らず独り立ちするにはさらにあと2週間ばかり必要です。

size of chicksそんなヒナの成長過程を示したのが右の模式図です。じつは私が野外で観察するときにヒナの齢の判断にいつも苦しむので、親と並んだときにサイズで判断できるようにと、撮り溜めていた写真を参考に自分用に作ったものです。ごく大雑把なものですが一応の参考にはなるかと思います。御覧のように、4週目まではずんぐりしていて明らかにヒナの体型ですし、親と比べればそれなりに小さく、わりと正確に齢を判断することができます。けれども、5週目以降はどうでしょうか。僅かずつ大きくなるていどで体型的にはほとんど変化がありません。じっくり観察すれば風切羽や尾羽の伸長など違いがないわけではありませんが、野外でその違いを判別するのはかなり難しいですね。

結局、サイズを比較するだけでは十分な判断材料にはなりません。そこで、1週目から9週目までのヒナの写真を各週4枚ずつ拾ってみました。野外で何週目のヒナか判断に困ったときに参考にしてみてください。今回はとりあえずPDFで写真だけですが、近いうちに説明を入れて別ページにまとめたいと思います。それまで今しばらくお待ち下さい。

ところで、アオサギのヒナが独り立ちするときはすでに親鳥と同じ大きさまで成長しています。巣立ち直前のヒナの体重は親鳥より若干重いとの研究報告もあるぐらいです。まあ巣立ってしばらくは一人ではろくに餌もとれませんから、その時に備えてできるだけ多くの餌を腹に詰め込んでおくということなのでしょう。そんなわけで、ふつう餌場で見かけるアオサギは成鳥であれ幼鳥であれ大きさはほとんど変わりません。たまに小さくて首の短いのをアオサギの子供だと言う方がいらっしゃいます。たしかにそんな感じではあります。けれども、あれはゴイサギですから。

タマゴ

アオサギのヒナの誕生前線があるとすれば、現在は北海道を北上中というところでしょうか。その前線、少なくとも札幌付近までは到達したようです。札幌のコロニーで、今日、今シーズンはじめてヒナの声を聞きました。あの小さくか細い声は生まれてまだ数日というところ。道内の他のコロニーでもこれから次々と新たな命が誕生することでしょう。とはいえ、ヒナが生まれているのはごくわずかな巣のみで、この辺りのアオサギはまだほとんどが抱卵中。親鳥とは似ても似つかないエイリアンのような顔をしたヒナたちは、青緑色の卵の中で自分の順番が来るのを静かにじっと待っています。

ところで、卵のことを考えていてふと思ったのは、アオサギは雌雄一緒になって子供を産むのだということ。何を言っているのかと変に思われるかもしれません。要は見方の問題です。たとえば人などのほ乳類では、赤ちゃんが生まれるまでの過程は最初の一瞬を除きすべて母親に任されています。ところが、アオサギの場合、母鳥だけが関わるのは交尾から産卵までのほんの二日ていどのことに過ぎません。そこからヒナが生まれるまでの長い期間は母鳥も父鳥も一緒になって卵を温めるわけです。産卵というのは卵が母体から外界に排出されたというだけで、その時点ではあくまで卵。ヒナではありません。そこから長い抱卵期間を経てようやくヒナになって生まれてくるわけです。そう考えると、これは父母一緒になって産んだヒナとみなしてもいいのではないかと。巣にうずくまって卵を温める父鳥の姿を見ていると、彼もまた妊娠という行為に雌とともに参加しているのだと思わざるを得ません。そういう視点でアオサギを観察すれば、彼らの日々の行動にもまた違った風景が見えてくるように思えるのです。

折角なので、卵についてもう少し実のある内容を書いておきます。卵のことでまず気になるのは、いったい何個産むのかということではないでしょうか。これについては普通は3個から5個とされています。こういうのは調べる場所が違えば結果が異なるのが普通で、3卵がもっとも多いという報告もあれば4卵が多いという人もいます。そして、平均としてはだいたい3個の後半あたりの値に落ち着くようです。もちろん5個が最高ではなく、稀に6卵目を産むこともあるようです。記録としては10卵というのがありますが、これはちょっと尋常とは思えません。ホルモンのバランスを崩したか何か特別な生理的事情があったのでしょう。ちなみに、卵の大きさは長径が57〜61mm、短径が41〜43mmとされています。これは鶏卵のMサイズほどの大きさです。この大きさの卵を抱くのですから、あまり欲張ってたくさん産んでも抱えきれずに困ることになります。こちらの写真は、いまニューヨークでライブ中継中のオオアオサギの卵。5卵がちょうど上手い具合に両脚の間に収まっています。6卵まではなんとかなっても、それ以上増えると外にはみ出して一度に温めるのは難しくなりそうです。親鳥の腹の下のスペース的にも5卵ぐらいがちょうど良いということなのでしょうね。

オオアオサギの子育てライブ中継

アメリカのニューヨークで、昨年に引き続き今年もオオアオサギの子育ての模様がライブ中継されています。中継されているのは、イサカという町の郊外で営巣しているオオアオサギ。コロニーではなく、たった1ペアの営巣です。このプロジェクトを行っているコーネル大学によると、オオアオサギがこの巣で営巣するようになって今年で5年目になるそうです。そして、過去の4年間は全てヒナを巣立たせており、とくに去年は5卵産んで5羽とも巣立たせています。

今年はというと、先月半ばにはオオアオサギの姿が巣の周辺に見られるようになっていました。ところが、その後、オオアオサギは巣に一時的に飛来することはあっても営巣を開始するまでには至らず。それがつい一昨日頃までの話です。去年は3月28日にはすでに卵がありましたから、今年はかなり遅れています。それが俄に活気づいてきたのが昨日(現地時間の8日)。数日前から雄のほうは巣に来ていたのですが、8日になってようやく雌も戻り、巣材運びやら何やらで急に忙しくなりました。ともかく、今年も彼らが戻りひと安心です。

もっとも、彼らは個体識別されているわけではないので、このペアが昨年のペアと同じかどうかは分かりません。けれども、雄のほうは右足の後ろ指が欠けていることから、昨年と同じ雄であるのは間違い有りません。冬の間に事故がなければ、おそらく雌も同じではないかと思います。昨年の繁殖が上手くいっているのに敢えてつがいを代える必要はないでしょうから。それに、ここは他に巣もなく、ひとつがいだけで営巣しているわけですしね。

cornellこのライブ映像は24時間途切れることなくネット中継されています。あちらは約半日の時差がありますから、こちらが昼であればあちらは夜。映像も夜間用の白黒映像に切り替わります。それから、画面の左下に”view 2nd camera angle”というボタンがあり(右画像参照)、上方から撮った映像も見られます。ライブ映像といっても写っているのは普通のオオアオサギで特別なことをするわけでも何でもありません。けれども、これだけ間近で見ると遠くから双眼鏡で見るのとは印象も全く異なります。まだ見られたことのない方はこの機会に是非御覧になって下さい。

映像について補足すると、オオアオサギが巣の上に立つと上半身は画面の上にはみ出てしまいます。ただ、それを全て入れるようにすると、画角が大きくなりすぎて、ヒナが生まれたときにヒナの様子が分かりにくくなるのですね。あくまで小さなヒナたちがメインに映るようにということでこの画角に固定されているのでしょう。

ともかく、彼らの営巣活動はまだ始まったばかり。全てはこれからです。数日中には卵も産まれることでしょう。その後、ヒナが巣立つまでの数ヶ月、オオアオサギと同じ目線で、彼らと一緒に子育てしているような気分になれますよ。

【追記 オオアオサギの営巣状況の経過報告ページをつくりました。今後の新たな動きについてはこちらのページで随時更新していきます。】

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