アオサギを議論するページ

鳥釣り禁止

17世紀に書かれた『釣魚大全』(アイザック・ウォルトン著)という本があります。じつは、この本にはアオサギの釣り方が説明されているのです。と言っても、アオサギを釣ろうとして釣ったのではなく、釣りをしていたら餌の魚にたまたまアオサギが食いついたというのが本当のようですが。

ただ、こういうことは得てして起こりうることなんですね。とくにルアーは危険です。ルアーをアオサギが追いかけてきたとか、ルアーにアオサギがかかったという話はたまに聞きます。アオサギのことですからすぐにルアーを飲み込むことはないはずですが、ルアーに付いているフックが引っかかったりラインに絡まったりするリスクは無視できません。そんなことで二進も三進もいかなくなると、釣り人は手元でラインを切ることになります。そうすると、アオサギはルアーをくわえたまま、というよりルアーがとれないまま餌場を離れ、繁殖期であれば、その状態で餌場とコロニーを行き来することになるのです。実際、私がコロニーを調べたときには、巣からぶら下がったルアーや林床に落ちたルアーを複数のコロニーで何度も目にしました(写真は林床に落ちていたルアー)。決して希なことではないのです。

ルアーに限らず、仕掛けや釣り糸といった釣りの道具は鳥にとってはとても厄介な代物です。釣り糸がくちばしに巻き付くと餌が獲れず餓死することになりますし、釣り糸をくっつけたまま飛んでいると、そのうち木に引っかかって身動きがとれなくなったり宙吊りになったりで碌なことがありません。このような人工物によってアオサギが被害を被ったというニュースは国の内外を問わず頻繁に耳にします。例えば、国内だけを見ても、釣り針釣り糸サビキヒモなど枚挙に暇がありません。

釣り糸や釣り針を捨てて帰るようなマナーの無い人は論外としても、釣りをしていると針が岩に引っかかったり、どうしても糸を切らざるを得ない状況は出てきます。その時に、どこまで鳥たちのことを思いやれるかが問われるのだと思います。簡単にブチッと切ってしまうのではなく、せめて最大限の努力をしてから切る、切った後で回収できるものは回収する、それで救われる命があるかもしれません。

それから、これは先ほどのルアーの場合ですが、万一、鳥が釣れてしまった場合には、ラインを切らずに鳥を釣り上げるべきだとの意見もあります。そして、釣って傷ついた鳥をすぐに救護センターに連れて行くのです(例えばこの記事)。ラインが絡まったまま悲惨な死に方をするよりは、釣り上げることで怪我をさせる怖れがあっても、そのほうが結果的に死に追いやるリスクは少ないということなのでしょう。

不思議なつがい

8月の残りの日々もあとわずかですね。皆さんのところのアオサギは今年も恙なく繁殖シーズンを終えたでしょうか? 私が今年よく観察していた江別のコロニーは、1巣だけヒナがまだ残っているようです。葉っぱで隠れて状況はよく分からないものの、声からしてどうも1羽だけのようです。今シーズン、おそらく400羽近くのヒナが巣立っていき、そしてとうとうこれが最後の1羽となりました。たぶんもう数日と経たないうちにこのヒナもコロニーを離れ、新たな世界に旅立っていくことでしょう。

ところで、毎年同じように繰り返されるアオサギの繁殖シーズンも、じっくり見ていると毎年なんかかんか違ったことや特別なことが起きています。江別のコロニーではカラスによる襲撃が例年になく多発し、その上、シーズン終盤にはオオタカまでが捕食者の仲間に加わるという、ヒナにとってはとんでもなく捕食者運の悪いシーズンとなりました。けれども、今年、このコロニーでもっとも衝撃的だったのはそれとは別の出来事です。ひと言では言い表せないので、当時の状況をそのまま綴ってみます。

その出来事とはつがい関係に関わるものでした。右の写真に写っているのが今回問題となったペアで、拡大して見てもらえれば、若干見かけ上の違いがあるのが分かってもらえるかと思います(カラスはたまたま通りがかっただけで無関係)。手前で首を伸ばしているほうはどこから見ても完全な成鳥です。一方、後ろに見えるほうは、首がまだ灰色っぽく、冠羽も伸びきっておらず、背中の白い繁殖羽もほとんど目立たないといった状態で、たぶん前々年生まれの今年初めて繁殖を試みる若い成鳥かと思われます。つまり、この2羽は外見で区別できるわけです。アオサギは2年目から繁殖を始めますから、この2羽のような組み合わせはとくに珍しいわけではありません。目を見張らざるを得なかったのは、彼らの行動、具体的に言えば交尾行動です。これがどうにも尋常でなかったのです。

おそらく、彼らの交尾を一度目撃しただけなら何とも思わなかったと思います。それ自体は何も変わったことのない通常の交尾でしたから。ところが、二度目に見たときは自分の目を疑わずにはいられませんでした。一度目の交尾では確かに首の白いほうが相手の背中に乗って交尾していたのですが、次に見たときはそれが逆になっていたのです。こうなってはどちらが雄だか雌だか分かりません。分からないけれども、お互いの位置が逆転したことは事実であり、どちらが雄でどちらが雌だったかにかかわらず、雌が雄の背に乗って交尾する場合もあるということになります。ただ、考えてみれば、そもそも雄が上でなければならないというような話は聞いたことがありません。じつは知らないだけで入れ替わりは普通にあること、そういうものなのかなと…。いや、たぶん、そういうものではないでしょう。これは素直におかしいと感じるのが正しいように思います。

じつは、私もこんなことを目撃したのは初めてでしたから、見たことに自信がなく、日を改めて再度確認に行ってきました。すると、また同じように上下入れ替わって交尾しているのですね。さらに別の日に観察しても同じことでした。もはや疑いようがありません。ただ、この状況をどのように解釈するかとなると、交尾時の位置が雌雄で逆転するという説明が唯一絶対の解釈とはなりません。では、他にどのような可能性が考えられるでしょうか? 私はこのつがいは2羽とも雄なのではないかと思っています。というのも、彼らはいずれも相手に上に乗られることをあからさまに嫌がっていましたから。それは2羽いずれにも自分が雌だという意識が無かったからではないかと。

この2羽は妙なペアのわりには数週間にわたってつがい関係を維持していました。けれども、こうした奇妙な交尾の後に卵を産んだ気配はなく、6月の半ばにはとうとう巣を放棄し行方知れずになってしまいました。もっとも、もし雄どうしなら卵を産めるはずもないのですが。

結局、このおかしな出来事は事実の確認にとどまり、その行動をもたらした原因については推測の域を出ません。交尾時の位置が雌雄で変わることがあるのかもしれませんし、雄どうし、あるいは雌どうしのペアが間違って成立することがあるのかもしれません。結局、真相は謎に包まれたままになりました。

この辺の事情についてはサギ類に限らず他に同じような事例が見つかれば、ここでもまた紹介したいと思います。もし、どなたか類似の行動を目撃された方がいらっしゃれば御一報いただけると幸いです。

アオサギ、まだまだミステリアスな存在です。

オオアオサギライブ中継雑感

数ヶ月前にここでもご紹介したオオアオサギの子育てライブ中継。しばらく前にヒナたちが皆巣立ちし、無事に今シーズンの繁殖活動を終えたようです。シーズンを通して24時間の連続撮影でしたから、ヒナたちの成長記録とか親鳥の給餌頻度とか、整理すればとても貴重なデータになるでしょうね。アオサギでもこうした試みに是非トライしてみたいものです。

ところで、この中継を見ながらいつも気になっていたのは、このオオアオサギ一家があまりにも恵まれすぎていること。なにしろ、彼らの巣は広い池の畔にあって、この池で餌がすべて間に合ってしまうのです。子育て最大の試練である餌不足に悩まされるということがほとんどありません。その証拠に5卵産んで5羽とも立派に育ててしまいました。巣立ちは2羽か3羽が普通のオオアオサギですから、このことだけ見ても彼らがいかに恵まれた環境で子育てしていたかが分かります。しかも、このペアは単独営巣で周りに他のサギがいません。餌場はほぼ彼らだけのプライベートエリア。コロニーで営巣していたら起こりうる様々なトラブルとも完全に無縁です。

つまり、この家族はかなり特殊だということなんですね。子育て中の目立ったトラブルといえば、抱卵中にアメリカワシミミズクに襲撃されたことぐらい。じつはアライグマが巣に登ってきたこともありましたが、これは巣立ち後のことで事無きを得ています。それ以外は万事恙なく子育てを終えたという感じです。これを見てオオアオサギやアオサギの子育てというのはこんなものなんだと思われたら、もっと劣悪な環境で必死になって子育てしているオオアオサギやアオサギたちが浮かばれません。

もしまた同じような試みが企てられることがあれば、その時は今回のようなセレブな家族ではなく、もっと庶民的な家族に焦点を当ててほしいなと、ヒナたちが巣立って空っぽになった巣の映像を眺めながら思ったのでした。

シーズン最終盤

7月も終わりますね。皆さんいかがお過ごしでしょうか?
札幌あたりではアオサギの子育てシーズンもそろそろ終わりです。コロニーにボーリングのピンのように突っ立っていたヒナたちも、ここ一週間くらいでぱたぱたっといなくなってしまいました。今は全盛期の1割残っているかどうかというところです。

この時期になると、残っているヒナもあちこち飛び回り、コロニーでは様々なことが無秩序化します。ヒナが自由に飛べるため、親から十分餌をもらえなかったヒナが親の後を飛んで追い回すとか。しかも、それが本当のヒナならまだしも、自分の子か余所の子かさえよく分からなくなっている様子。ヒナのほうは自分の親でも余所の親でもとにかく餌がもらえればいいのでしょうけど、親のほうはやりきれないでしょうね。

そんな狂騒状態が見られるのもあと数日。ぼろぼろになった巣も、その巣を支えてきた木々も、来年の3月までひとまずお役ご免です。

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